大学生のとき、オールナイト上映で見ました。何が言いたいのか全然わからなかったけれどラストで感動した、初めての映画です。
主人公はフェリーニ自身を思わせる映画監督のグイド。スランプに陥って湯治場にやってくると、愛人や仕事仲間が追いかけてくる。そこで、幼少期のブドウ酒風呂での楽しい情景や浜辺に住む娼婦と踊って神父に罰せられたことなどを思い出す。テーマは行き詰まったクリエーターの苦悩で、個人のちっぽけな問題だけど、普遍的なものです。一方で、グイドが夢の中で女性たちを支配しようとする姿は、キリスト教的な父権主義が表れていて、女性や自然の支配が強いアジアにはない感覚でおもしろいと感じました。
終盤、追い詰められたグイドは思わぬ行動に出ます。登場人物が増えて物語が複雑化すると、いつまでたっても終わらない。古代ギリシャ演劇ではこのような時、人間の力を超えた絶対的な神が機械仕掛けで登場するんです。この映画では、宇宙ロケットの巨大な発射台。結局ロケットは発射されず、盆踊りの櫓みたいになって、その周りを登場人物皆が手をつないで「人生はお祭りだ、一緒に過ごそう」と言って踊るんです。
フェリーニがすべてをさらけ出して、自己と物語の破綻をそのまま魔法のごとく映像美に作り替えた、奇跡的な映画です。年を重ね、改めて見て内容が全部理解できた。イラストは、グイド自身を重ねた、風に吹かれて旅するテントを描きました。妄想と現実がてんこ盛りで混ざり合っている感じですね。
(聞き手・石井久美子)
監督=フェデリコ・フェリーニ
製作=伊
出演=マルチェロ・マストロヤンニ、クラウディア・カルディナーレ、アヌーク・エーメほか やなぎ ・みわ
1967年生まれ。6月23日まで前橋市のアーツ前橋で個展。その後福島、横浜、静岡の各市を巡回。10月に神戸港で野外劇「日輪の翼」を公演予定。 |