創作の世界であっても、男のかっこよさが出ている映画はいい、と思うきっかけになったのが、サム・ペキンパー監督の作品です。それまでの米映画は、勧善懲悪でハッピーエンドがお決まりでしたが、ペキンパーが表現したのはバイオレンスとダーティーな黒の世界でした。
この作品は、刑期途中で出所したドクが、釈放に力を貸した地方政界実力者との取引で、妻のキャロルと銀行強盗に向かう。しかし、奪った金を持ったまま、キャロルとメキシコに向かって逃亡するというストーリー。
実力者から銀行に送り込まれた殺し屋は、金を独り占めしようとし、ドクに拳銃で撃たれます。ところが、防弾チョッキを着ていたために一命をとりとめ、ドクを追い続ける。ペキンパーらしい執拗さが表れた印象的な場面でした。ドクとキャロルの逃走シーンには車が頻繁に登場し、米社会での人と車の密接な関係を映し出します。
キャロルが実力者と関係を持っていたと知りながら体を張って守るドク。ドクを心から愛するために不貞をはたらいたキャロル。2人の夫婦愛も描かれています。その行く末には驚きましたが、監督らしからぬ、ほのぼの感があっていいなと。
ドク役のスティーブ・マックイーンは表情をほとんど変えず、オーバーなアクションもない。けれど、「男」が生きているときに感じるかっこよさがありました。今の若い人たちにはなかなか理解されないでしょうが、男らしさに価値があった当時を想像して見ると、おもしろい映画かもしれません。
(聞き手・陣代雅子)
監督=サム・ペキンパー
製作=米
出演=スティーブ・マックイーン、アリ・マッグロー、アル・レッティエリほか きくち・たけお
1939年生まれ。メンズブランド「タケオキクチ」のほか、大人の着こなしを提案する「40 CARATS & 525」を手掛ける。 |