韓国農村部の四季の中で、79歳の寡黙な農夫と、老いた一頭の牛との生活を淡々と撮影したドキュメンタリーです。30年間一緒に働いてきた牛は、獣医師の診断で余命があまりないと言われる。仕方なく若い牛を飼うけれど、農夫は衰えた牛を連れていつまでも畑仕事に行くんです。
一番印象的だったのは、画面いっぱいに映された牛の目。まつげで目を隠しているけれど清浄で無垢な感じがします。草食動物はみんな同じ目をしていて本当にきれい。農具の機械化が進む中、耕作機械や農薬を使わず牛とともに畑を耕し、自然の流れのままに生きる人間の姿も響きました。牛が引く荷台に夫婦で乗る様子は、哀愁があって懐かしく我が身を見ているよう。子どもの頃、京都・嵐山から旧国鉄・二条駅まで材木を運んでいた牛や馬の荷台の後ろに乗るのが楽しみでした。
約30年前、映画の舞台、慶尚北道奉化郡より南の町に黄褐色の朝鮮牛を描きに行ったことがあります。日本画家速水御舟(1894~1935)の「朝鮮牛図」という絵が好きで、韓国の写真を撮り続けている親しい写真家・藤本巧の作品も見てええなと思っていた。映画に登場するような牛市場で牛を描いていたら、「酒飲め」って牛主からマッコリを差し出された。おもろい旅でした。
僕は動物が好きでよく描くけど、好きを超えたところに、自分はこうするしかないという定めがあると思う。本作は、牛と生活する農夫の一途な姿勢を教えてくれる。芸術も、人間としての姿勢を下地に、与えられた絵心をのせていかなければと思います。
(聞き手・上江洲仁美)
監督・脚本・編集=イ・チュンニョル
製作=韓国
出演=チェ・ウォンギュン、イ・サムスン たけうち・こういち
1941年、京都市生まれ。動物や草木を描く。9月7日~12月1日に愛媛県の今治市大三島美術館で「村田茂樹・竹内浩一」展。 |