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私の描くグッとムービー

井上奈奈さん(画家、絵本作家)
「ミスター・ロンリー」(2007年)

演者の違和感が希望にかわる時

  • 井上奈奈さん(画家、絵本作家)「ミスター・ロンリー」(2007年)

 「ミスター・ロンリー」はタイトル通り憂鬱で美しい映画です。一見関係のない二つの物語が一つの映画として描かれ、信仰心に潜む悲哀が二つをつないでいます。

 中心になるのはマイケル・ジャクソンとして生きる青年が、マリリン・モンローとして生きるインパーソネーター(なりきり芸人)たちと始める共同生活の話。マイケルとマリリンに扮する男女2人がパリで出会い、マイケルはマリリンが住むスコットランドの古城に誘われます。そこでは自分の芸を一流と信じるヨハネ・パウロ2世やリンカーンのインパーソネーターたちが、共同生活をしながら「地上最大のショー」と称する舞台づくりに励んでいます。

 途中に挿入されるもう一つの話は、熱帯の国のシスターたちの物語。食糧支援をする飛行機から誤って落ちたシスター。神に祈ると奇跡が起きて生還し、仲間たちも次々に同じ体験をします。

 この絵は、何かを信じる心を二つの話の共通点だと感じ、舞台のワンシーンのように仕上げました。マリリンがマイケルにイチゴを食べさせるシーンが印象的で、イチゴは禁断の果実の象徴として描いています。

 主人公のマイケルの「世の中で普通と思われていることが理解できない」という言葉が自分と重なりました。私も生きづらさを感じ、暮らしてきた場所を離れ、16歳で単身渡米しました。悩み抜いた過程を経て、マイケルも私も自分のままで生きていくしかないのだと思えた。いまでは、違和感は希望だと感じています。

(聞き手・小松麻美)

  監督=ハーモニー・コリン
  製作=英・仏
  出演=ディエゴ・ルナ、サマンサ・モートン、ドニ・ラバンほか
いのうえ・なな
 京都府舞鶴市生まれ。国内外の個展などで絵画作品を発表。絵本作家としても活動中。代表作に「ウラオモテヤマネコ」など。

(2019年8月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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