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金子富之さん(日本画家)
「孔雀王」(1988年)

希望もらった密教の世界観

金子富之さん(日本画家)「孔雀王」(1988年)

 希望を頂いた映画です。大人の世界に魅力を感じられず、どうやって生きるか悩んでいた10歳ごろに見て、こんなに面白い世界観があるのかと。子どもを楽しませるために大人が本気で作っている感じが伝わって、未来への可能性を感じました。

 チベットの仏塔に封じられていた、地獄門を開く鍵の少女アシュラが復活し、裏高野の退魔士・孔雀とチベット密教僧・コンチェが開門阻止のために立ち上がる物語。チベットや日本の密教の神秘的でおどろおどろしい世界観に初めて接して、自分の世界が広がるのを感じました。アシュラを操る妖女、羅我の変身シーンは、小さい子が見たらトラウマになりますね。顔が二つに割れてそこが口になって。CGではなく模型のコマ撮りもあり不自然な動きもあるけど、そこにある種のリアル感がある。かっこよくて、邪悪で、容赦ない。デザインした人は天才ですね。ヒンドゥー教神の転生である羅我と裏高野の十二神将の戦闘シーンには、宗教を超えたリアルな躍動感があります。

 光線銃などの科学の力ではなく、密教の法力や呪術で敵を調伏するのも新鮮でした。「臨兵闘者皆陳烈在前」と九字を切るのもその一つのファクターです。1980年代後半は、霊的なものを扱う「キョンシー」や「帝都物語」も流行し、世紀末に向かう妙な高揚感があった気がします。

 自分の作品にも、極彩色の色使いや、多数の顔や手がある造形など密教の要素を採り入れたものがあります。イラストは映画の世界観に沿って、チベット密教の忿怒尊、ヴァジュラバイラヴァを描きました。

(聞き手・安達麻里子)

  監督=ラン・ナイチョイ
  原作=荻野真
  製作=日・香港
  出演=三上博史、ユン・ピョウ、安田成美、グロリア・イップほか
かねこ・とみゆき
 1978年生まれ。妖怪、精霊、神仏を主題に描く。来年1月25日~2月16日、名古屋・松坂屋美術館で7人展「SEVEN ARTISTS展」。
(2019年12月6日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)