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中村好文さん(建築家)
「赤ひげ」(1965年)

熱意と愛情感じる時代劇セット

「赤ひげ」(1965年)

 黒澤映画は若い頃からよく見ていました。映画そのものも好きですが、映画の作られ方にとても興味がありますね。美術監督だった村木与四郎さんは数多くの黒澤作品を担当した方で、彼が作ったセットが素晴らしいんですよ。時代の雰囲気を出すのがすごく上手。中でも「赤ひげ」は、時代劇のセットの一つのピークだと思いますね。

 舞台は、江戸時代に幕府が貧しい人たちに向けて開いた病院「小石川養生所」。長崎遊学から戻った若い医者・保本登は、養生所での見習いを命じられます。最初は所長の「赤ひげ」に反抗的な態度をとるんですが、患者や赤ひげと接する中で成長していくという話です。

 養生所の建物はオープンセット。建物や品物を古く見せることを業界用語で「時代をつける」といいますが、時代のつけ方が秀逸なんです。床板の年季は木材を火であぶってから磨いて作り上げています。貧乏長屋の障子紙はモンドリアンの抽象画みたいに所々張り替えてあったり、大雨の場面では障子紙をちゃんと湿気でダフダフさせていたり。保本が同僚の森半太夫と並んで薬を作っている場面は、後ろに映る壁面いっぱいの薬簞笥がいいんですよ。44年前に名画座で見た時にスケッチしたこの簞笥の絵が今も手元にあります。

 映画監督と建築家は異なる職種の人たちを束ねて作品を作り上げていく点でよく似ていると思います。黒澤映画を見ると、みんなが全精力をかけて取り組んだ意気込みがヒシヒシと感じられる。その熱意と愛情に打たれ、自分も頑張らなきゃと発奮させられるんです。

(聞き手・牧野祥)

  監督・脚本=黒澤明
  共同脚本=井手雅人ほか
  原作=山本周五郎
  出演=三船敏郎、加山雄三、山崎努、土屋嘉男、笠智衆ほか
なかむら・よしふみ
 1948年生まれ。設計事務所「レミングハウス」主宰。住宅設計を多く手がけるほか、家具デザインも。著書に「住宅巡礼」など。
(2019年12月20日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)