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小田桐昭さん(クリエーティブディレクター)
/「雪之丞変化」(1963年)

「省略」の美しさ、おもしろさ

「雪之丞変化」(1963年)

 電通に入ってCM(コマーシャルメッセージ)の作法を手探りで考えていたころに公開された映画です。時間を省略して表現する「時間のデザイン」という観点で刺激の多い作品だったのでよく覚えています。

 上方歌舞伎の女形・中村雪之丞が、両親の敵を討つ物語。雪之丞らの一座が江戸で舞台の幕を開けた日、桟敷に敵の姿を見つけるところから始まります。雪が舞う舞台で踊る雪之丞を引きの位置から捉えたのっけの場面。舞台の上手から下手までが映る横長の画面には余計なものが映っておらず、大胆な省略によって歌舞伎の美しさが表現されていてワクワクしたものです。

 イラストに描いた場面も「見せ方」に意表をつかれました。雪之丞の部屋に潜り込んで秘密を知った女盗賊のお初が、雪之丞を呼び出そうと小石に文を巻き付けて投げ入れます。何もない障子に突然影が映ったかと思うと、次第に影が大きくなって障子を突き破る。ほんの短い時間に「おやっ」と思わせて釘付けにする。これはデザインの本質でもあるし、僕たちが商品や企業のメッセージを印象深く伝える手法と何ら変わらなかった。

 15秒、30秒という短い時間のCMを創るうえでいかに自分たちの伝えたいメッセージを強調して見せるかといったら、「省略」することなんです。雪の場面もそうでしたが、省いて単純にするからこそ印象に残る。この映画は省略した美しさとおもしろさであふれていました。僕たちがやろうとしていることは間違っていない、と確認させてくれた作品です。

(聞き手・尾島武子)

  監督=市川崑
  脚本=伊藤大輔、衣笠貞之助
  シナリオ=和田夏十
  原作=三上於菟吉
  出演=長谷川一夫、山本富士子、若尾文子ほか
おだぎり・あきら
 1938年生まれ。61年電通入社。企業の広告制作に携わり、広告賞を多数受賞。独立後は絵本や雑誌のイラストなども手がける。
(2020年1月10日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)