最後まで訳の分からない悪夢みたいな話です。主人公の男と彼女の間に子どもができるんだけど、その赤ちゃんは首から下を包帯で巻かれた、顔も体も異形の姿。彼女は家を出て行き、1人で育てることになった男が見つめる部屋の暖房用ラジエーターの中には、ほおにコブがついた女が踊るステージが現れて……。
説明や解釈をしても意味がない話ですが、過程が妙にリアルで、また見たくなっちゃうんです。劇場でこの映画を見た当時、上京した僕が住んでいたのは4畳半一間。閉塞感や孤独感が、主人公の住む狭い部屋と重なるのか、今見ると懐かしい感じもあります。
僕が好きなのは作品に流れる「ギャグ」。この映画を見ると笑っちゃうんですよ。一番は、彼女の家族が男を食事に招くシーン。他人の家で飯を食う気まずさを、抽象的で普遍的に描いているような感じがします。娘の発作をなだめる母親、微動だにしないおばあちゃんの腕を使ってサラダを混ぜる場面も、その家では日常なんだろうなと。父親の張り付いたような笑顔も笑えます。
「間」の取り方なんでしょうね。笑いって普通、常識を基点にしないと成り立たないんです。常識の真反対をいったり、少し外したり。この映画を見るまでは、常識が通用しない世界で、「間」だけで笑いが成り立つ経験をしたことがなかった。映画の影響もあるのか、僕はその後、「もにもに」という作品を描いています。生物かも分からない物体、雲や地面とも思える長方形や線が登場する、一切常識がない世界です。自分なりに、究極の漫画を描いたつもりです。
(聞き手・中村さやか)
監督・脚本・美術=デビッド・リンチ
製作=米
出演=ジャック・ナンス、シャーロット・スチュワートほか あいはら・こーじ
1963年生まれ。代表作に「コージ苑」「かってにシロクマ」。近著に「こびとねこ」。週刊アサヒ芸能で「コージジ苑」を連載中。 |