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相原コージさん(漫画家)
「イレイザーヘッド」(1977年)

「間」だけでギャグ、初経験

相原コージさん(漫画家)「イレイザーヘッド」(1977年)

 最後まで訳の分からない悪夢みたいな話です。主人公の男と彼女の間に子どもができるんだけど、その赤ちゃんは首から下を包帯で巻かれた、顔も体も異形の姿。彼女は家を出て行き、1人で育てることになった男が見つめる部屋の暖房用ラジエーターの中には、ほおにコブがついた女が踊るステージが現れて……。

 説明や解釈をしても意味がない話ですが、過程が妙にリアルで、また見たくなっちゃうんです。劇場でこの映画を見た当時、上京した僕が住んでいたのは4畳半一間。閉塞感や孤独感が、主人公の住む狭い部屋と重なるのか、今見ると懐かしい感じもあります。

 僕が好きなのは作品に流れる「ギャグ」。この映画を見ると笑っちゃうんですよ。一番は、彼女の家族が男を食事に招くシーン。他人の家で飯を食う気まずさを、抽象的で普遍的に描いているような感じがします。娘の発作をなだめる母親、微動だにしないおばあちゃんの腕を使ってサラダを混ぜる場面も、その家では日常なんだろうなと。父親の張り付いたような笑顔も笑えます。

 「間」の取り方なんでしょうね。笑いって普通、常識を基点にしないと成り立たないんです。常識の真反対をいったり、少し外したり。この映画を見るまでは、常識が通用しない世界で、「間」だけで笑いが成り立つ経験をしたことがなかった。映画の影響もあるのか、僕はその後、「もにもに」という作品を描いています。生物かも分からない物体、雲や地面とも思える長方形や線が登場する、一切常識がない世界です。自分なりに、究極の漫画を描いたつもりです。

(聞き手・中村さやか)

 

  監督・脚本・美術=デビッド・リンチ
  製作=米
  出演=ジャック・ナンス、シャーロット・スチュワートほか
あいはら・こーじ
 1963年生まれ。代表作に「コージ苑」「かってにシロクマ」。近著に「こびとねこ」。週刊アサヒ芸能で「コージジ苑」を連載中。
(2020年1月31日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)