1996年に渡英して3、4年経った頃、ホームシック的なものになりまして。当時は日本の情報を得るにも、母からのファクスや手紙が頼り。そんな時にロンドンの映画館で日本映画が上映されていると知り、何の前情報も無しに見に行きました。そしたら偶然にも、故郷の石川が舞台でした。
是枝監督の劇場デビュー作。何か起こりそうで起こらない、不思議な話なんです。尼崎で暮らす夫婦に子どもが生まれ、一見幸せそうなタイミングで夫の郁夫が自殺してしまう。自殺の理由が分からないまま残された妻のゆみ子は、幼い頃に祖母が失踪した記憶も相まって悶々としながら、再婚のため能登半島へ嫁いでいきます。
郁夫とゆみ子が自転車を2人乗りするシーンや、引きでとらえた海岸の葬列のシーン。要所要所に不要なほど長くて印象に残る、キラーショットが入っています。言葉としては嫌いですがいわゆる「映像美」があり、能登の風景もこれ以上ないしっかりしたフレームの撮り方。いなくなる人の気持ちは語られず一切分かりませんが、「説明しきれない不思議さ」や押しつけがましくない「隙間」があり、そういった部分が本当に好み。監督の意思がはっきり表れ出すその後の作品群とは、だいぶ趣が異なる気がします。ただ誰ひとり能登弁を話せていないな、とは思いましたけど。
子どもの頃に家族でよくワラビ採りに行った能登の風景や、石川でおなじみのクリーム色に赤いラインの北陸鉄道バスが出てくると、ほっとする。DVDはもちろん原作本も買い、今も石川を欲する時に見ています。
(聞き手・安達麻里子)
監督=是枝裕和
原作=宮本輝
出演=江角マキコ、浅野忠信、内藤剛志、木内みどり、柄本明、赤井英和ほか さわ・ひらき
1977年金沢市生まれ、ロンドン在住。3月20日~7月26日、千葉県佐倉市のDIC川村記念美術館でグループ展。9~10月、奥能登国際芸術祭に出展。 |