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稲葉賀恵さん(服飾デザイナー)
「招かれざる客」(1967年)

本音と建前が交錯する家族劇

「招かれざる客」(1967年)

 まだ厳しい人種差別が残っていた1960年代。当時、観光で渡米した私はニューヨークのトイレでドアに「カラー」「ホワイト」と書かれているのを目にしたの。どちらを利用していいのか迷っていると、現地の人が「ホワイトへどうぞ」と言うんだけれど、嫌な気分だった。この映画はその頃を思い出させるの。

 舞台の中心は白人のドレイトン家。結婚の承諾を得るために実家を訪れた一人娘のジョーイと婚約者の黒人青年医師ジョン。母親は思いも寄らない報告に驚くけれど、少しずつ娘の気持ちに理解を示すように。対して、新聞社の経営者でリベラル派の父親は猛反対。「想像を絶する困難が待ち受けていることは明らかだからだ」と。いざとなったら男性はバックグラウンドとか考えてしまうんでしょうね。まさに人には本音と建前があるってことを表現したストーリー展開。

 なんてことのない家族の光景を描いているんだけれど、インテリアやファッションなど、監督がこの時代の暮らしをよく分かって作っている。私はこういう時代設定がきちんとしている映画が好き。両親役で出演したスペンサー・トレイシーとキャサリン・ヘプバーンも。長年恋仲にあった2人だから、演技が本物の夫婦のように自然で素晴らしかった。こういう映画は心に残るわよね。

 イラストは映画の舞台となったサンフランシスコの風景をバックに、白人女性と黒人青年医師がしっかり抱き合い、結婚に向けてぶれない心を表しているの。決して重くないストーリーだから、かわいらしいイメージで。

(聞き手・陣代雅子)

  監督=スタンリー・クレイマー
  脚本=ウィリアム・ローズ
  製作=米
  出演=スペンサー・トレイシー、キャサリン・ヘプバーンほか
いなば・よしえ
 1981年に「yoshie inaba」を立ち上げ。JR西日本「瑞風」のクルー制服など企業制服のデザインも多数手がける。
(2020年2月28日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)