1954年の米ニューヨーク。偉大な科学者が滞在するホテルの一室を、国民的人気女優が訪れる。しばらくすると、女優の夫の元大リーグ選手や、反共産主義の上院議員もやってくる。実在の人物であるアインシュタイン、マリリン・モンロー、ジョー・ディマジオ、ジョセフ・マッカーシーを思わせる4人それぞれの時間が交錯する一夜の物語。マリリンがアインシュタインを訪ねるなんて完全に作り話ですが、作り話を作り話として描く映画が好きなんですよね。
女優はセックスシンボルとしての虚構の陰で内面的な孤独を感じていた。科学者は自らの名が原爆開発に利用されたことへの自責の念に苛まれ、元大リーガーは過去の栄光に閉じこもり、上院議員はゆがんだ正義感にとりつかれる。いくらスターであろうと、誰もが逃れられない業を抱え、あらがおうともがく。カメラはどこか冷めた目で、それぞれの葛藤を映します。
20年以上前、テレビでこの映画を偶然見ました。しかも途中から。序盤の、マリリンがアインシュタインに特殊相対性理論を解説するという、この上なくチャーミングなシーンがずっと頭を離れません。
映画公開当時、世界はまだ冷戦のただ中。その後、「壁を壊そう」「扉を開こう」と変わっていった世界を見たら、女優も科学者も希望を感じられたかもしれません。でも最近目立つのは、再び壁を築き、扉が閉ざされるニュースばかり。映画の登場人物たちに謝らなきゃいけないような未来にするのは嫌ですよね。
(聞き手・笹木菜々子)
監督=ニコラス・ローグ
脚本=テリー・ジョンソン
製作=英 出演=マイケル・エミル、テレサ・ラッセルほか なかやま・ひでゆき
1972年福岡県生まれ。中山英之建築設計事務所主宰。東京芸大建築科准教授。著書に「建築のそれからにまつわる5本の映画」など。 |