通っていた幼稚園はキリスト教系。クリスマスにはキリスト誕生の劇をやっていて、幼心に「聖書って本当の話なんだろうな」と思っていました。ところが、中学生になって太宰治の「駈込み訴え」を読んで驚きました。キリストを裏切ったユダの思いが切々と書かれていて、聖書の裏側ではユダが生きていたんだ、と気付いたんです。
同じくユダの心象に触れているのが、キリストの最期の7日間を描いたミュージカル「ジーザス・クライスト=スーパースター」。大学生の頃、劇団四季の舞台で知りました。世界中で上演されていますが、特に1973年の映画版は物語世界だけで完結しない視点があって、お気に入りです。
映画の冒頭とラストには、出演者たちがバスでロケ地入りする様子と、撮影を終えて去っていく様子が入っています。このシーンによって物語には演者がいることを認識せざるを得ない。物語で聖書の裏側を知った気でいても、それすら人が演じていた虚構でした、と見せつけられるのです。
音楽も奥深い。「ホサナ(おお!救いたまえ)」と歌う民衆とキリストが練り歩く曲は、明るく希望を見いだしているようなのに、ふと不穏な調子になってまた戻る。最高潮に達した民衆の熱狂が狂気に変わる瞬間が表れている気がします。
この映画は「物語を読むときは、それが生まれ、伝えられた経緯を意識しないと怖いな」と思うようになったきっかけ。かぐや姫や乙姫など、昔話に登場する女性たちに焦点を当てた私のエッセー「日本のヤバい女の子」も、そんな思いから書いた本の一つです。
(聞き手・高木彩情)
監督=ノーマン・ジュイソン
製作=米
出演=テッド・ニーリー、カール・アンダーソンほか はらだ・ありさ
1985年生まれ。近著に「日本のヤバい女の子」の続編「日本のヤバい女の子 静かなる抵抗」(柏書房)。 |