映画館で見て、恥ずかしくなるくらい泣いた。自分のその時の心情と重なる部分があまりに多くって。忘れられない映画になりました。
戦前戦中の日常を、故郷の広島市江波から呉に嫁いだ18歳のすずさんを中心に描いたアニメ映画。戦争が激化し日常が壊される中、彼女は空襲で右腕を失い、大好きな絵も描けなくなります。
自分も、初の大きな個展に向けた3×4メートルの大作の制作中、利き腕の右肩を脱臼する大けがをして。3カ月間右手が使えず絶望しました。映画を見たのは、苦労のすえ3年半かけて仕上げた絵を無事に展示できた直後。絵が描けなかった時の喪失感を、すずさんの絶望に重ねてひたすら泣いた。
正直、あのほんわかした絵はあまり好きじゃない。でも後半のシリアスな展開になるにつれ、あの絵だから説得力を持って訴えてくる部分がありました。例えば原爆のシーン。自分にとっては、この映画の原爆が一番怖かった。リアルでグロテスクな怖さじゃなく、淡々と描いた事実で心をつかまれる怖さ。熱風で体が溶けた母親の耳からどわどわって出てくるウジ虫が大きすぎてジブリ映画のタタリ神みたいに見える場面とか、絵だけで見るとかなりデフォルメされているんだけど、悲惨さが心に入ってくるリアルさがあるんです。
イラストは、物語の中で最も共感した「右手」を主役に、その下で語らうすずさんと僕です。右手や大事な人を失ってもなお前を向いていかねばならない彼女の心情と、けがをした時の自分の気持ちを重ねて表現するために、今回は左手で描きました。
(聞き手・安達麻里子)
監督・脚本=片渕須直
原作=こうの史代
声の出演=のん、細谷佳正、尾身美詞、稲葉菜月ほか いけだ・まなぶ
1973年佐賀県生まれ。米国在住。2017年に佐賀県立美術館で初の大規模個展。細いペン先で圧倒的なスケールの細密画を描く。 |