仕事人間だったテッドが主人公。ある日突然、妻のジョアンナが家を出て行ってしまい、一人息子ビリーとの慣れない暮らしに悪戦苦闘する日々が始まります。朝食にフレンチトーストを作ろうとして、ボウルではなくマグカップに卵を割り入れ、キッチンはぐちゃぐちゃ。子育てする親の朝の慌てっぷりがすごくリアルです。ビリーと信頼関係を築くまでが丁寧に描かれていて、結婚や出産など人生の節目節目で何度も見た映画です。
ストーリーはもちろん、演出も完璧。父子の生活が1年以上経った頃、ビリーを取り戻すために帰ってきたジョアンナと裁判になります。テッドが1人掛けのソファに座ることで「僕は1人になるんだ」との思いが伝わってくるし、公園で別れを告げるシーンでは、木の葉が散るようにビリーもいなくなってしまうのかと感じさせる。デビッド・ホックニーの絵画に描かれていそうなインテリア、登場人物のファッションも全てが美しい。
私は生まれつき難聴で、子供の頃は父が録画した字幕付きの洋画を、ラブストーリーでもギャングものでも、何でも見ていました。字幕を全て読めるわけではないので、人の動きや映像の撮り方などに注目していたのかもしれません。言葉がなくても雰囲気はカメラワークで捉えられると知り、絵を描く参考にもなりました。
会話をする時は相手の口の動きで言葉を読み取ります。だから電車で隣に座る人の会話を偶然耳にするという経験に憧れます。知らない人の人生を垣間見てみたい。映画も他人の人生だから、とても勉強になりますよ。
(聞き手・伊藤めぐみ)
監督・脚本=ロバート・ベントン
製作=米
出演=ダスティン・ホフマン、メリル・ストリープほか いまい・うらら
1982年生まれ。食べ物など身近な物を油彩で描く。5月22日~6月4日、東京・渋谷のニーディギャラリーで個展を予定。 |