家庭に不和を抱えるおじさんの俳優が、CMの仕事で訪れた日本。同じホテルに滞在していた若い女性と出会います。こちらも夫との関係にわだかまりがあって、心に隙がある状態で出会ってしまった2人の心模様を映し出してゆく映画です。
作中にはゲームセンターやネオンなど、異邦人目線の東京が出てきます。東京は自分もよく知っている場所のはずだけど、異国のようにも感じました。元々そういうロードムービーが好きで。自分が旅行するときもそうなのですが、外国に居るときの不安な気持ちが心地いいんですね。大勢で旅をしても一人でカフェでお茶してみるとか。そんな異邦人としての疎外感も映画からよく伝わります。
おじさん俳優を演じるビル・マーレイがいいですよね。彼は名優ですが、自分は彼を元々のコメディアンとして見ているところがあるんです。日本の若者と一緒にカラオケに行って遊ぶシーンの、ついて行けているようで行けていないような滑稽さと最後のどうにもならないシーンのバランスが絶妙で、見終わった後の余韻に浸れます。
元々若いときからチャプリンのような喜劇役者が演じる哀愁のある役は好きだったけれど、おじさんになってから見ると更にリアリティーがあって、昔より切ない感じが染みてしまいます。
イラストレーションの仕事をするときも、喜びと悲しみのバランスは意識しています。色彩やモチーフ、しぐさなんかに、少し切ない要素を入れることがあります。そうすることで喜びがより表現できる気がして。
(聞き手・高木彩情)
監督・脚本=ソフィア・コッポラ
製作=米
出演=ビル・マーレイ、スカーレット・ヨハンソンほか ふくだ・としゆき
1967年大阪生まれ。装画や絵本の制作などを手がける。絵担当の近作に「あの人が歌うのをきいたことがない」(888ブックス)。 |