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六平直政さん(俳優)
/「BROTHER」(2000年)

ダイナーの 赤の扉は地獄門

六平直政さん(俳優)<br>/「BROTHER」(2000年)

 かねてから大ファンの北野武監督作品に初めて参加したのが、この「BROTHER」でした。

 この映画は、組織を追われたヤクザの幹部山本が、米ロサンゼルスに渡って異母弟のケンやその仲間のデニーらと新興マフィアを形成して縄張りを広げていく物語。日英合作ですが、決してバズーカ砲で撃ち合うようなギャング映画ではありません。日本古来のヤクザ映画を彷彿とさせる、人と人との結びつきが見て取れるのです。

 例えば、寺島進さんが演じた加藤は、山本への忠誠心から米国まで駆けつけたうえに、組織を大きくするため自ら命を絶った。親分や兄貴分、体面のために命をかけたり指をつめたりする登場人物の行動には根拠があって論旨明快。残忍でありながらも暴力シーンは身の丈にあったもの。だからこそリアリティーにあふれていました。

 マフィアとの抗争で追い込まれた山本が最後、立ち寄ったダイナーの扉が真っ赤でした。その扉が僕には、イタリアの詩人ダンテの「神曲」に出てくる地獄の門に見えましたね。追っ手の車が店の前に着いたと分かると山本は、店主に金を渡して外に出る。途端に一斉砲火が始まって扉に無数の穴が開く――。撃たれる姿は見えなくても、山本がどうなったかが想像できます。セリフではなく映像で見せる手法は「絵描き」ともいえる北野監督ならでは。哲学的で品がありますよね。

 拳銃は舞台の米国、短刀は日本のヤクザをコラージュを用いて表しました。兄弟分のちぎりを交わす盃が割れてジ・エンド。左上は僕。あのころは髪が生えていました。

(聞き手・尾島武子)

  監督・脚本=北野武
  製作=日・英
  出演=ビートたけし、オマー・エップス、真木蔵人、加藤雅也、寺島進、渡哲也ほか
むさか・なおまさ
 1954年生まれ。武蔵野美術大学彫刻科卒業、同大大学院修士課程中退。6月公開予定の映画「劇場版 奥様は、取り扱い注意」に出演。
(2020年5月8日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)