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寺門孝之さん(画家)
「太陽を盗んだ男」(1979年)

人生に差し障る面白さ

寺門孝之さん(画家)「太陽を盗んだ男」(1979年)

 映画が大好きです。高校時代から大学3年生くらいまでは8ミリ映画の自主制作に熱中していました。1970年代後半は今に比べると自由度が高く、街中で色々なことができました。この作品は封切りすぐに18歳で見ました。

 いつも風船ガムを膨らませている、さえない感じの中学校理科教師が原子力発電所から液体プルトニウムを奪取し、自宅で原爆を製造。国家相手にたわいもない要求をし、自身も被曝し、ラストシーンは東京を滅亡させたかもしれないと思わせます。シリアスな内容ですが、ふざけてもいて全編突き抜けたエネルギーに満ちあふれています。

 この絵では、2度の原爆投下から約35年を経たこの国のポップスターである沢田研二の肉体が、三つの○で遊んでいるイメージを描きました。風船ガムの半透明の○は彼の虚無感、銀色の○は原子爆弾、赤い○は日の丸にもつながる太陽です。日本人にとって極めて深刻なモチーフを扱っているにもかかわらず、徹底的にエンターテインメントに仕上げた監督や制作陣の強さ、明るさがすごい。ほとんど無許可で撮影されたというこの破天荒な作品は、僕の人生に差し障りました。

 僕が映画制作の夢を捨てたのは、この映画がきっかけかもしれません。長谷川和彦監督のように、これだけのスタッフやキャストを率い、社会と渡り合い、運命も偶然も巻き込んで一本の作品を創り上げるなんて、余程のカリスマ性のあるいい男でなくては無理だなあ、となんとなくの挫折を味わい、一人で制作表現ができる絵を描いていこうと決めたのでした。

(聞き手・隈部恵)

 

  監督・共同脚本=長谷川和彦
  出演=沢田研二、菅原文太、池上季実子、伊藤雄之助、北村和夫、神山繁、佐藤慶ほか
てらかど・たかゆき 
 独自の天使画で人気。神戸芸術工科大教授。著書に「てらぴか映画日誌」(風濤社)、「ビジュアルデザイン1.」(左右社)など。
(2020年7月10日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)