母の影響で古い映画が好き。モノクロの本作は約30年前に銀座の名画座で見て以来、ずっと心に残っています。私の中で永遠のベストワンです。
物語は王道の記憶喪失もの。第1次大戦で負傷して記憶を失った兵士スミスは、踊り子ポーラと出会って恋に落ちる。結婚して幸せに暮らす中、スミスは事故にあって昔の記憶を取り戻し、代わりにポーラとの3年間の記憶を失ってしまう。幸福な前半から一転、後半はミステリーのように先の読めないハラハラする面白さがあります。
恋愛ものだけど湿っぽくないところがいい。ポーラが知的で明るく、さっぱりとした性格だからかな。スミスも紳士的で素敵。中盤で恋敵が出てきても変に三角関係にはならず、あくまで主役2人の物語が展開します。すれ違ってもめげずに、自力で道を切り開くポーラの姿が胸を打ちます。
ストーリーは単純でも、演出が徹底的に計算されていて飽きさせません。たとえばポーラが不意に再登場する場面。モノクロで髪や服の色のヒントがない分、驚きが増します。DVDで初めて一緒に見た夫は隣で息をのんでいました。お話づくりは、単純で面白くて飽きさせない工夫が大事。絵本でも心がけていることです。
イラストは、スミスの脳内で光る失われた3年間の記憶の断片を表現しました。2人が暮らした一軒家の庭に咲く花に色付けしています。思い出せないけれど何か大切なことがあったような、心から消えない花のイメージ。彼は再びこの花に巡り合えるのか? 最後は圧倒的に心を揺さぶられました。
(聞き手・星亜里紗)
監督=マービン・ルロイ
原作=ジェームズ・ヒルトン
製作=米 出演=ロナルド・コールマン、グリア・ガースンほか くどう・のりこ
発売中の隔月誌「kodomoe(コドモエ)」8月号(白泉社)に、「ノラネコぐんだん」シリーズの新作絵本が付録で付いている。 |