映画館へ行くと、気になったポスターをチェックしています。これはポスターに写る女の子の、目の力にひかれて見た作品。
トナカイの放牧をして暮らす北欧の先住民族サーミ人、エレ・マリャの成長物語です。分離政策によってサーミの子どもは寄宿学校へ送られていた1930年代。エレ・マリャはサーミ人だから進学できないことを知り、スウェーデン人のふりをして街で生きようとします。私は10代で故郷を離れてアラスカ大へ進学しましたが、ひどい差別を受けながら、生まれ育った場所を飛び出すことは、比較にならないほど困難だったでしょう。
遠い土地の話ですが、日本の同世代の女の子にも共感できる場面もある。エレ・マリャが夏祭りに行く途中、引き返して湖で体を洗うんです。周りから差別を受けていた彼女は自分の臭いが気になったんですね。背伸びしておしゃれな場所に行く時、自分のことが他人の視点で見える感覚は思春期の色々な経験にも通じます。
今は東北大学東北アジア研究センターで人類学の研究に関わりながら、美術家として作品も発表しています。学術的な視点で文化を見ると、物事を俯瞰して捉えてしまいがち。一方でアートは作るのも、見るのも、個人を掘り下げていくことにつながります。この作品が素晴らしいのは、歴史の暗部を扱いながら、生まれた場所を離れて生きた女の子の葛藤や成長に焦点を当てたところ。イラストでもそれをイメージしました。一人一人の物語を伝えることが、文化の深層を伝えることだと改めて思いました。
(聞き手・伊藤めぐみ)
監督・脚本=アマンダ・シェーネル
製作=スウェーデン・ノルウェー・デンマーク
出演=レーネセシリア・スパルロクほか これつね・さくら
9月5日~27日、オンラインで開催される山形ビエンナーレに出展。リトルプレス「ありふれたくじら」Vol.6を9月に刊行。 |