何不自由なく生きているのに生きがいがない主人公の男。彼のマンションが爆破されたある日、彼はタイラーという男に連絡を取ります。その夜、タイラーに頼まれ殴り合ったことをきっかけに主人公の生活が一変していきます。まさに自分の人生と一緒だと感じた映画です。
私は現在、「銭湯の番頭兼イラストレーター」として活動していますが、もともと建築家を目指していました。早稲田大学を出て、建築事務所に入って。いわば「エリートコース」のレールの上に乗っていました。でも、自分がやりたいことは本当にこれ?という気持ちが消えず、人生つまらないな、と思ってたんです。そんな時に体調を崩しちゃって。もう続けられない、と感じた時に出会ったのが銭湯でした。昼間の日差しに照らされた湯船に入ると全肯定された気がして救われ、転職のきっかけにもなりました。
私が体調を崩したことは作中での「爆破」、銭湯は主人公たちが生きている感覚を得た「ファイトクラブ」。銭湯に出会って、私も自分の生き方を見つけられました。タイトルで暴力賛美映画と思われるのは嫌。重要なのは殴ることではなく、殴られて痛みを知ること。痛みから目を背けず生きている感覚を大事にしろ、と伝えています。
獣医師の夢を諦めたコンビニ店員に銃を突きつけたタイラーが「6週間後に獣医師の勉強を始めていなかったらブッ殺す」と言い放つシーンがいい。そんな風に彼は、映画を通して「ぐずぐず生きてんじゃねえ」と私たちに銃口を向けているんじゃないかな。
(聞き手・高木彩情)
監督=デビッド・フィンチャー
原作=チャック・パラニューク
製作=米 出演=エドワード・ノートン、ブラッド・ピットほか えんや・ほなみ
高円寺の銭湯「小杉湯」の番頭をしつつ全国の銭湯を描く。著書に建築の図法で銭湯の魅力を紹介する「銭湯図解」(中央公論新社)。 |