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島田虎之介さん(漫画家)
「突破口!」(1973年)

マフィアを出し抜くかっこよさ

島田虎之介さん(漫画家)<br>「突破口!」(1973年)

 子どもの頃、テレビで洋画劇場が放映されていて。どんな作品でも欠かさず見ていましたね。おかげで見る目が養われた、幸福な時代でした。その中で、時間のふるいにかけられて僕にとって傑作として残ったのがこの作品です。

 話は米ニューメキシコ州ののどかな田舎風景で始まる。そこから、主人公の男が妻や仲間と銀行を襲う。急転直下でリズムを変えてくる。妻は警官に撃たれて死んでしまう。感傷的になるかと思いきや、それはアジトに帰る車中でだけ。仲間との会話で、男が曲芸飛行のパイロットだったことが分かるが、過去はほとんど語られない。盗んだ金が実はマフィアがらみで命を狙われる。

 主役を演じる名優、ウォルター・マッソーは、イケメンでもなく、見た目ただのオッサンだけど、頭を働かせて切り抜け、マフィアを出し抜こうとするのが格好いい。すばらしいんですよ、彼のゆったりした所作もかったるそうな表情も。それから殺し屋の不可解な行動、不敵な笑顔、残酷さ。役者の演技と監督の技術があるから、余計な説明がなくても鑑賞に堪えるんですよね。クセのある人物が登場し、出会っては去っていく。人の「行動」で場面が展開して無駄がない。暴力的で感傷を排していてドライ。だからって冷たいだけじゃないし、深さもある。そこが僕の考えるドン・シーゲル監督作品の良さ。

 自分の漫画も昔は書き込んでいたけど、最近は、せりふは少なく、シンプルな線だけでなんとかやれるようになってきた。ドン・シーゲルから学んだことですよ。

(聞き手・井上優子)

 

  監督=ドン・シーゲル
  製作=米
  出演=ウォルター・マッソー、ジョー・ドン・ベイカー、アンドリュー・ロビンソンほか
しまだ・とらのすけ
 1961年生まれ。「トロイメライ」が第12回手塚治虫文化賞新生賞。代表作に「ラスト・ワルツ」、最新作「ロボ・サピエンス前史」。
(2020年8月28日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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