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荻原浩さん(作家)
「きっと、うまくいく」(2009年)

社会に物申す青春映画

荻原浩さん(作家)「きっと、うまくいく」(2009年)

 インド映画に興味を持つきっかけになった作品です。ジブリ作品や恐竜映画も好きですが、人に薦めるならこれですね。たぶん5年くらい前に娘がDVDを借りてきて一緒に家で見たのが最初だったと思います。それ以来、主演のアーミル・カーンさんの映画を見るようになりました。

 舞台はインドの最難関工科大学。頭が良くて型破りなランチョー、親の期待に応えてきたファルハーン、神頼みが欠かせないラージューの友情と、彼らが引き起こす騒動を描いた青春映画です。インド映画特有の歌や踊りもところどころ入りますが、ストーリーがおもしろく、笑えるし、恋愛要素もある。学歴偏重社会に対するアンチテーゼも込められ、世の中に物申してもいる。

 物語の始まりは卒業から10年後。消息不明のランチョーを友人たちが捜す道中と、大学時代が交互に描かれます。大学で、競争をあおり立てる学長の教育方針に反して自由にふるまうランチョーに親友2人は影響されていく。ランチョーにライバル心を燃やす同級生や学長の娘の婚約者といった癖のある役もいいんですよ。小説でもダメなやつとか悪役を書くほうがおもしろいので、つい注目しちゃいます。3時間近くある長編ですが、ミステリー仕立てなので飽きません。

 「うまくいく」はランチョーの口癖であり、呪文のような言葉。僕の場合は「大丈夫、死にやしねえよ」ですね。広告会社時代に後輩女性から言われた言葉ですが、これを信じて生きてきた感じです。現実はいろいろありますが、前向きに捉えることが大切と思います。

(聞き手・牧野祥)

 

  監督・共同脚本=ラージクマール・ヒラニ
  製作=インド
  出演=アーミル・カーン、カリーナ・カプールほか
おぎわら・ひろし
 1956年生まれ。2016年「海の見える理髪店」で直木賞受賞。今年4月に初の漫画作品集「人生がそんなにも美しいのなら」を刊行。
(2020年9月18日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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