まだ消化できないほど心に深く刺さった映画です。主人公のブランドンの元に、ある日転がり込んできた妹のシシー。共同生活を送る中で、平穏だと思い込んでいた生活が乱されていきます。
一見完璧なエリートサラリーマンのブランドンが欲しくても手に入っていないものがきっと愛だと思うんです。彼は映画の中で自身のことを一切話さず、愛を求めようともしません。シシーは愛を求めることが下手ですが、主人公と違って声に出して愛を渇望します。主人公が声を漏らし涙を流す終盤のシーンは、むきだしの本性を発露できるシシーに対しての羨望や自分は彼女のように求められないことへの嘆きに感じられました。
私自身も、将来が安定した夫と結婚し、子供を育て、作家活動も続けていて順風満帆だねと言われます。自分でも良い奥さん、良い母に見える理想的な「大村さん像」になりきろうとしていましたが、とても空虚で。本能むきだしの人を目にすると主人公のように嫉妬や強烈な敵意を抱いてしまいます。主人公がセックス依存症という設定につい目が行きがちですが、この映画は、社会的に成功しているように見える人ほど抱える普遍的な闇を描いていると思います。
私の作品の材料は、100円ショップで買える文房具の丸シール。ゴージャスで、富の象徴である夜景が、近づいて見ると安価なシールにしか見えない。美しさと物の価値について問いかけています。今回描いたのは夜景を背にたたずむ主人公。きらびやかな夜景とは対照的に悲壮感が漂っているように思えませんか。
(聞き手・高木彩情)
監督・脚本=スティーブ・マックイーン
製作=英
出演=マイケル・ファスベンダー、キャリー・マリガンほか おおむら・ゆきの
1988年中国生まれ。2012年から丸シールを使った絵画を制作。11月7日~12月23日、東京都調布市の市文化会館たづくりで個展。 |