父母と幸せに暮らしていた幼い女の子が破傷風になり、親子で闘病する様子が描かれた映画です。破傷風は、土壌や汚泥の中にいて強い毒性を持つ破傷風菌が、けがをした傷口から体内に入って増えることで体にけいれんを起こしたり、重症化して呼吸困難で死亡したりする恐ろしい病気です。
子どもの頃、たまたまテレビで放送されたのをうっかり最後まで見てしまって(笑)。ものすごく怖かったんです。いまだに記憶に残っていて思い出すだけでも怖い……。その当時は自分がなったら怖いなっていう視点で見ていましたが、大人になってからは自分の子どもがかかって壮絶な体験をすることになったら怖いと思うように。
映画の原作は芥川賞作家の三木卓が発表した同名小説。作者の娘が破傷風になった実話を元にしたものだとあとで調べて分かって。だから病状の様子は映画ですごく分かる。映画の中で女の子がけいれんの発作が起きて舌をかんで口が開かなくなり、呼吸を確保するために医師が乳歯を抜くシーンが印象に残っています。自分は歯のモチーフを描くのが好きなんですけれど、もしかしたらこのシーンが元になっているのかも。子どもの頃の怖いもの好きと同じ線上にあるという感じかな。
生きていると自分ではどうにもできないことってあるんだなとすごく感じます。絵は破傷風菌に翻弄される家族を描きました。普通に生きていてもそういう状況に陥ることは誰にでもありうる。でも、その中でも頑張って生きていかなきゃいけないと目の前に突きつけられて考えさせられた映画です。
(聞き手・小松麻美)
監督=野村芳太郎
脚本=井手雅人
原作=三木卓 出演=渡瀬恒彦、十朱幸代、若命真裕子ほか みんち
京都府生まれ。代表作に絵本「いっさいはん」「にゅうしちゃん」(いずれも岩崎書店)や「ごみじゃない!」(PHP研究所)がある。 |