芸術家を題材にした映画はおもしろくないと思っていたけれど、この映画は違いましたね。
自他共に認める変わり者の郵便配達員シュヴァルが、フランスの田舎道でそろばん玉を重ねたような石につまずいたことで、この石で娘に宮殿を建てるまでになった実話を元にした映画です。貧乏で、口べた、笑っちゃうくらい不器用でまっすぐな人間の深い親子の愛情を描いているんです。
彼が建築の知識がなくても宮殿を建てるまで突き動かされたのは、たまたまつまずいた石が風変わりな形をしていて、娘におもちゃの一つも買えないなら、これで何か作ってやろうと思ったから。彼には技術ではなく、自然に転がっていた石から美しいものを見いだす審美眼と、自分の信念でそれを追求する力があっただけのことなんです。
自分の活動の原点である米米CLUBも、やりたいものを追求しているだけ。イロモノ、変わり者、と言われながらも、舞台で何を表現するかを大事にしている自分にも重なって見えました。
宮殿は、壁の凹凸を危険が無いよう削るなど、随所に娘への愛が感じられます。人への愛情が無垢なほど人を感動させられると思っています。
だからこそ、後に宮殿をみたピカソが触発されて絵を描いてしまうほどの名建築になったのでは。
描いたのは、娘の誕生を告げられたときのシュヴァルの表情。喜び、不安、父になることの気負いなど様々な感情が入り交じる、一人の男がいとおしくて。台紙がくぼんでしまうくらいに水彩色鉛筆を何度も何色も塗り重ね、彼の魂に思いをよせました。
(聞き手・鈴木麻純)
監督=ニルス・タベルニエ
脚本=ファニー・デマールほか
制作=仏 出演=ジャック・ガンブラン、レティシア・カスタほか いしい・たつや
茨城県出身。米米CLUBのほかソロ活動ではアート制作など多方面で活躍。デビュー35周年記念シングル「愛を米て」を発売予定。 |