ジャック・タチ監督の作品は好きですね。のんびりとした雰囲気の中で繰り出されるギャグ。仕事のあとに見るにはとても心地良いんですよ。ただ、これは趣向が違って強く心に残ったんです。
自動車社会のヨーロッパ。アムステルダムで開催されるモーターショーに、設計士のユロがデザインしたキャンピングカーを出展しようと輸送トラックでパリを発つ。しかし、道中はご難続き。車社会を風刺したロードムービーですね。
この作品はほとんどせりふがないんです。しかも、ストーリー性がない。そんな映画のどこに魅力を感じたかといえば、映し出されるクラシックカーの色彩とファッション。車が続々と登場するシーンでは、ボディーカラーをホワイト・ベージュ・グレーなど、落ち着きのあるシックな色調にし、フランスの統一された街並みを感じさせるんです。そこに、ビビッドなイエローとブルーを配色した輸送トラックを走らせ、主体であることを強調。この対比には目を奪われます。また、ショーの広報担当マリアは裾広がりのベルボトム、幾何学的なデザインのミニスカート、キャスケットやトンボメガネなど、1970年代のファッションをシーンがかわるごとに披露。アイコンとしての役割を見事に果たしています。秀逸なのはタイトルのグラフィック。様々な方向へ流れていく道路に見立てたデザインはかっこいいの一言に尽きます。イラストはここから着想を得たんですよ。
独特のユーモアセンスと細部まで行き届いた美意識を感じさせる作風、時を重ねるごとにその良さに気づかされます。
(聞き手・陣代雅子)
監督=ジャック・タチ
製作=仏・伊
出演=ジャック・タチ、マリア・キンバリー、マルセル・フラバルほか みながわ・あきら
1995年に「mina」(現mina perhonen)を設立。テキスタイルを中心に、服や家具などのデザインを手掛ける。 |