フランスなどヨーロッパの映画が好きで、高校時代は地元熊本のミニシアターによく足を運びましたね。初めて見たのはその頃。再び見る機会に恵まれたのは生活拠点をフランスに移した30代だったかな、そこでヨーロッパの文化に触れて作品への理解がより深まったんです。
修道僧に育てられたいたずらっ子のマルセリーノ。ある日、僧院の隠し部屋でキリスト像を発見する。友達のいないマルセリーノはキリストとひそかな交流を始め、言葉を交わすように。スペインの小村で起こった奇跡が描かれています。
注目すべき点は聖書を巧みに用いた演出。僧院を建てる3人の修道僧をキリストの誕生を祝うために現れた東方の三賢人、僧院で暮らす修道僧たちをキリストが選んだ12使徒として見立てています。マルセリーノがキリストに与えたパンとワインは、キリストが受難前夜に12人の使徒と共に祝った最後の晩餐を思わせ、一貫してキリストの歴史を刻み込んでいるんです。さらに、モノクロの世界で厳かな雰囲気を引き立たせる。光と影が強調された神秘的な映像にグッと引き込まれ、見るもの全てに想像力がかき立てられます。キリストの教えが根付くフランスで生活したからこそ感じ取れたことでしょうね。
イラストに描いたのは物語の要となるマルセリーノとキリストが心通わせる場面。くすねたパンとワインを与えるマルセリーノの純真無垢な姿に心が癒やされます。その後の展開には驚きますが、本当の幸せとはなにかを考え直す機会を与えてくれる作品です。
(聞き手・陣代雅子)
監督=ラディスラオ・バホダ
制作=スペイン
出演=パブリート・カルボ、ラファエル・リベリエス、アントニオ・ビコほか たやま・あつろう
1982年、「A.T」設立。89年、「ATSURO TAYAMA」を立ち上げ。多数の企業でディレクターを務める。 |