ぼーっとしたいとき、肩ひじ張らずに見られる作品で、昔から10回以上は見ています。友達の引っ越し祝いのパーティーを主軸とした若者たちのある一日を切り取った映画で、自分も若い頃にあんなことがあったなと思い出させてくれます。
描き切られてはいないものの、登場人物に何か悩みがあるらしいのが印象的です。例えば、夜中に自転車で出かけた正道は、車にはねられても、しばらく道路に寝転んで事故を受け入れてしまったみたい。その後電話する彼女ともうまくいっていない様子です。突然出てくる鯨をみつけた女子高校生も、最後まで何者か分からないけれど、なぜ一人で海辺に居たんだろう?と気にかかる。他のみんなも、やっぱり何かを抱えているような。
私は上京して専門学校を卒業した後、アルバイトをしながらイラストの持ち込みをして暮らしていた時期がありました。イラストの仕事が年1、2本という時もあって、よく「自分は何をしているんだろう」と思っていたんです。当時、親はそんな生活に反対していて、うまくいかないときなどは海を見に行ったものでした。そういう、少し苦しかった20代の自分と重ねて見てしまいます。
この映画は日常の流れていくような場面ばかりが描かれているけれど、この特別ではない、時間が経ったら忘れていってしまうような何げない雰囲気が好きです。私が使う主な画材はどこでも買えるボールペン。画題も扇風機や農作業など「劇的じゃない風景」を選んでいます。この映画のように忘れてしまいそうな過去や今の空気感を作品にしたいと思っています。
(聞き手・高木彩情)
監督=行定勲
脚本=行定勲、益子昌一
原作=柴崎友香 出演=妻夫木聡、田中麗奈、柏原収史ほか なかむら・たかし
1976年新潟県生まれ。ボールペンで線や点を連ねて面を描く。光村図書出版の2021年度版教科書「中学書写」表紙などを手がける。 |