1980年代、アイルランドの首都ダブリンが舞台です。高校生の主人公コナーが、個性的な友人たちとバンドを組み、オリジナルの楽曲やミュージックビデオを作り上げていく様子が描かれています。私もコナーのように、地方の閉鎖的な環境でもがいた経験があり、自分の手で何かを作るのが救いだった時期を思い出しました。
描いたのは、コナーが憧れの年上の少女ラフィナに初めて声をかける場面。10代の、胸がザワザワするような気持ちがよみがえるシーンです。終盤、コナーとラフィナは、それぞれ音楽家とモデルという夢を胸に故国を離れることを決意します。少年少女たちが喜びのある仕事を志して成長し、自立する姿に元気をもらえる映画です。
また、ニットデザイナーという職業柄、登場人物たちが着ているニットにも触れずにはいられません。序盤のシーンで主人公とその家族が身につけていたニットとマフラーが、とくに印象に残っていますね。アイルランドといえば、アラン諸島で作られるアランニット。実は初めて訪れた外国がアイルランドでした。
震災後の2012年、「気仙沼ニッティング」という、地元の女性たちによる手編みニットを新たな産業にするプロジェクトが立ち上がりました。これにデザイナーとして関わることになり、同じく編み物が産業として栄えていたアラン諸島を訪れたのです。立ち上げ当初は、編み手の方たちに指導もしていましたが、震災から10年が経った現在では、地元の方たちを中心に運営されています。
(聞き手:高田倫子)
監督・脚本=ジョン・カーニー
製作=アイルランド・英・米
出演=フェルディア・ウォルシュ・ピーロ、ルーシー・ボイントンほか みくに・まりこ
1971年生まれ、新潟県出身。近著に「ミクニッツ大物編・小物編 ザ・ベスト・オブMiknits 2012-2018」(文化出版局)。 |