映画は年間500本見ていた時期もあります。だけどこの作品は見逃していたんです。最近見て、知らなかった時間を後悔しました。
1970年代のアメリカが舞台。ゲイでダンサーのルディは、母親に見捨てられたダウン症の少年マルコと出会い、弁護士の恋人ポールと一緒に育てるため養育権を得ようとします。ルディに母性が生まれ、マルコも初めて愛を教えてもらう。血縁関係のない他人同士が自らつながりを作り、強く結び合う姿が本当に美しいと思いました。
実話が基になっていて、奇をてらわないすごみがあります。当時は同性愛者に対して目を背けたくなるような差別や攻撃がありました。それをあえて描いたのはお涙頂戴ではなくて、同じ過ちを繰り返さないでほしい、今がどれほど幸せか再確認してほしい、そんな制作者の使命感が感じられました。
周囲から認められなかった3人だから、誰かに写真を撮ってもらう機会がなかったんじゃないかと思い、家族写真を描きました。僕は5、6年前から、亡くなった子どもやその家族の絵を描くという活動を続けています。子どもを数年前に死産で亡くしたお母さんから、「家族と一緒にいる成長した姿を描いてほしい」と言われたのがきっかけでした。映画を見ていても、子どもへの親の思いが重なって、心が痛くて仕方なかった。
映画に飛び込んでマルコを助けることはできないけど、周りの人に優しくしよう、今日は大切な人にキスをしよう、怒るのを1回減らそうと思うきっかけをくれます。
(聞き手・伊藤めぐみ)
監督・共同脚本=トラビス・ファイン
製作=米
出演=アラン・カミング、ギャレット・ディラハントほか ミツル
家族を亡くした人たちのエピソードをもとに描いた絵本「あなたがのこしてくれたもの」(CHICORA BOOKS)を6月に発売予定。 |