カナダのピアニスト、グレン・グールド(1932~82)の若き日のドキュメンタリー映画です。
人気絶頂の30代前半で演奏会から引退。その後は録音や放送のみで活動し、没後も世界を熱狂させ続けています。
この映画はプライベートを追った「オフ・ザ・レコード」と、バッハのイタリア協奏曲の録音風景を撮影した「オン・ザ・レコード」の2部立て。
晩年の哲学者然として人を寄せ付けない孤高のイメージが強かったのですが、全編ペラペラよくしゃべるし冗談もとばす。しかも、ジェームス・ディーンのようないい男でびっくり!
1部の自宅での練習風景は特に衝撃的。バッハのパルティータ第2番を口ずさみながら弾いているかと思ったら、突然窓際に行ってしまう。その間も彼の中では音楽が流れ続けているんでしょう、ピアノの前に戻るとその頭の中の演奏の続きを弾き始める。
普通は一度中断したら全く別の演奏になってしまうのに、ごく自然な流れで続きを弾く。もう天才というか別次元で、あまりのかっこよさに涙がちょちょぎれます。グールドの瞑想するような思考と練習法が見えるシーンです。
2部のイタリア協奏曲もいいですね。後年も同じ曲を録音していますが、この27歳の時の演奏の方がパッションにあふれ、はるかに魅力的です。
最近、友人から30年くらい前の作品を褒められました。今の自分では描けない新鮮さがあるのかな。
音楽も絵画も芸術って不思議なもので、そういう風に自分が意図しないうちに完成しているものもあるんでしょうね。
(聞き手・小森風美)
監督=ロマン・クロイター
製作=カナダ
出演=グレン・グールドほか にしやま・たかすけ
1967年京都府生まれ。92年、伊フィレンツェ・国立美術アカデミー絵画科卒業。ランビエンテ修復芸術学院日本校・元副学院長。 |