入り口は音楽でした。細野晴臣さんが手がけた映画音楽のサントラ版のCDを繰り返し聴くうちに、いつしかそれを心に取り込んでしまったようで、ふと心がゆるんだ時などに聞こえてきます。
映画が公開された時、映画館においそれと足を運べる年齢でも環境にもなかったので、大学生になってサントラCDを買って聴くうちに、これは映画をみなきゃと思って。
宮沢賢治の原作は非常に独特なゆっくりとした時間の流れというか、何が起こるんだろう?と思っている時間が長く、映画を見終わったあともあれは何だったのか、こういうことだ、というところまでは連れていってはくれないんですよ。整理がつかなくてずっと心の中にありました。
40代後半になって、突然の別れや大切な人を失う経験をした後に、再びこの映画をみて、はじめて少し理解できたと感じました。なぜジョバンニとカムパネルラは、銀河鉄道の旅をすることになったのか、ずっとわからずにいましたが、きっと、あの旅はジョバンニとカムパネルラのお別れの手前のひとときだったのだと思うのです。伝えたかったことや聞きたかった言葉を交わす、そんなひとときが夢の中でもいいからあったならと願わずにはいられないのだと。そう腹に落ちました。
劇中のセリフのように「なにがしあわせかわからないです」ということが人生にはあります。そんな時にこの映画が立ち現れて、そうかそういう意味もあったのかと、納得が後からやってくる、そんな映画です。
(聞き手・三品智子)
監督=杉井ギサブロー
原作=宮沢賢治
原案=ますむらひろし 脚本=別役実 音楽=細野晴臣 声の出演=田中真弓ほか さかい・ゆうじ
ボーカルグループ「ゴスペラーズ」のメンバー。17日、アカペラ楽譜集「ゴスペラーズ アカペラ コーラス セレクション」を発売予定。 |