1人の人間が社会に自身の居場所をつくっていく生き方を描いた映画が好きです。
これは、性別適合手術を受けるも失敗した売れないロック歌手・ヘドウィグの半生を描いたミュージカルの映画化作品。初めて見たときからお気に入りに。見るたびに新鮮で、毎回感動します。
ヘドウィグの視点で話が進むので、ほかの登場人物の心情を説明する描写がない。恋人になるトミーと出会ったときにヘドウィグが歌っていたのと同じ「薄汚れた街」という曲を、物語の終盤でトミーが違う歌詞で歌うシーンがあるのですが、ヘドウィグの表情やしぐさで、別れを悟ったことが見ている方には伝わってくる。でも、トミーがなぜ去っていくのか心情は描かれていない。セリフで説明されるのではなく、大事なことは全て歌と表情の中にあって、1人の人生を体感したような感覚にさせられるところが秀逸です。現実でも、どんなに人と向き合っても、相手が自分から離れていく本質的な理由はわからないものじゃないですか。だから、周囲の行動や言動を根本的にはわからないまま、どうにか答えを見つけて進んでいくヘドウィグの姿は、すごくリアル。
イラストは、「ウィッグ・イン・ア・ボックス」という曲をイメージして描きました。ヘドウィグが自己の歩み方を見つけ始めたのかな、と思った前向きなシーンだったのでポップに。
傷つき、もがきながらも気高くあろうとするヘドウィグが好きです。私も自分自身から逃げずに向き合っていくために、定期的に見たくなる作品です。
(聞き手・吉﨑未希)
監督・脚本・主演=ジョン・キャメロン・ミッチェル
製作=米
出演=ミリアム・ショア、マイケル・ピットほか みつむね・かおる
1993年生まれ。俳優のほか、細密画を描くアーティスト活動も話題に。来春、絵画の個展を開催予定。 |