読んでたのしい、当たってうれしい。

現在
63プレゼント

鈴木杏さん(俳優)
「マトリックス レボリューションズ」(2003年)

なぜ戦うのか―「選択したからだ」

鈴木杏さん(俳優)「マトリックス レボリューションズ」(2003年)

 舞台は近未来。この世は仮想現実の世界で、本当の世界では知能と意志を持ったコンピューターが人間を支配しているという設定です。人間を解放するため、二つの世界を行き来し機械と戦うのは救世主として選ばれたネオ、トリニティー、モーフィアスたち。英語でトリニティーは「三位一体」。イラスト左の3人は彼らで、輪郭にはコンピューター言語を象徴する数字を使いました。

 シリーズ中、機械が起こした戦争によって世界は雲で覆われ、暗い場面が多いのですが、3作目の本作では光のシーンが印象的。敵陣の中枢部を目指すネオとトリニティーは、到達の直前、雲上で遮るもののない太陽の光を見ます。ネオは内通者に目をつぶされるのですが、見えないはずのネオには光が透けるように世界が見える。闇の世界にいる彼らが見た光を描きたかったんです。

 右側は無数に増殖するネオの宿敵、スミス。2人はあらゆるものが持つ二極性の象徴です。善悪、明暗。共存し、均衡を保つものですよね。

 10代の頃は斬新なアクションやカメラワークにひかれましたが、コロナ禍の今見返すとセリフの一つ一つが刺さりました。スミスとの戦闘シーンで、劣勢でもくらいつくネオ。なぜそんなに戦うのかとスミスに問われ、「選択したからだ」と答えます。ネオは自らの選択に責任を持ち、向き合うことで真の救世主になっていくんですね。私たちも実は、あふれる情報の中から自分で答えを選びとって生きている。自分の選択で生きる。見えないものを見る。生きることの本質を描いた映画なんだと気付きました。

(聞き手・山田愛)

 

  監督・脚本=ウォシャウスキー姉妹
  製作=米
  出演=キアヌ・リーブス、ローレンス・フィッシュバーン、キャリー・アン・モスほか
すずき・あん
 1987年東京生まれ。26日までBunkamuraシアターコクーンにて、井上ひさし作、蜷川幸雄オリジナル演出の舞台「ムサシ」に出演。
(2021年9月17日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)