在住の米サンフランシスコは好きな単館系映画の公開が少なく、日本に帰った時に映画館をハシゴします。これは2008年の帰国時に。クラフト好きの女子心をくすぐる邦題でしたし。
夫に先立たれ、生きる気力を失った80歳のマルタが、得意の洋裁でかつて夢見た下着店の開店に向けて奔走。保守的な村人たちに煙たがられながらも夢をかなえるという、心温まる映画です。
マルタが街の下着屋で「縫製が甘い」と売り物にダメ出しする場面は、洋裁の仕事をしていた自分の母が、既製品にダメ出しする姿と重なります。仕立屋あるある、に親近感を覚えました。
初めは、マルタが下着の素材のレースや刺繍糸を選ぶ姿が喜々としていて、いくつになっても夢を追うっていいなぁ、と思いました。
でも最近改めて見たら、印象が変わったんです。コロナ禍で2年ほど帰国がかないません。その間も孤立感を持たなかったのは、友人の支えではないか、と。大阪出身で大学は京都、仕事で上京、その後渡米……。移動の多い私の人生は、常に友人たちが支えてくれた。マルタも一人では下着屋開店を成し遂げられなかったはず。劇中のセリフ「友達は人生を豊かにしてくれる」のとおり、支え合う友情が描かれていると気づきました。
お菓子やお酒を楽しむ場面が多い映画で、食いしん坊の私をひきつけます。時には友人たちとタルトをつつきながら、開店準備にいそしんだのかも。マルタと友人たちに思いをはせながら、直線縫い専用のミシンを踏み踏み、刺繍でタルトをつくりました。
(聞き手・鈴木麻純)
監督・原案=ベティナ・オベルリ
製作=スイス
出演=シュテファニー・グラーザー、ハイジ・マリア・グレスナーほか さかい・みゆき
ミシンの刺繍作品を雑誌や広告に提供。京都がテーマの来年のカレンダーを発売中。詳細はギャラリー「椿ラボ京都」のホームページで。 |