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藤田和日郎さん(漫画家)
「3人の逃亡者」(1989年)

人間の「あったかい情」描きたい

藤田和日郎さん(漫画家)「3人の逃亡者」(1989年)

 自分にとってベストの映画は100本以上あります。漫画と同じで「この作品で、時間を忘れるくらい、読者によい時間を過ごしてもらう」のが勝負なので、少年漫画家として「面白くない映画なんて絶対すすめられないぞ!」という思いで選びました。

 刑務所を出所して善人になると誓った男が、銀行強盗に巻き込まれてしまうアクションコメディーです。イラストの右上に描いたのは、銀行強盗の娘が、主人公ルーカスの隣で眠ってしまうシーン。最初、彼女のことなんてどうでもいいと思っていたルーカスの心の変化が、すごくよくわかる。人が信じたいあったかい情みたいなものが感じられて、特に印象に残っています。俺もそういうものが描きたくて、漫画家をやってますから。

 この映画は、今も3人がどこかにいるかのような終わり方をします。最後に、完全に物語を終わらせて読者を物語から解放することも、作者のひとつの使命。しかし、こんな風に物語の種を読者の心に残し続ける終わり方もあって、それが漫画でいう読後感につながっていきます。

 漫画で重要なのは絵じゃないと思うんです。すごい絵やかっこいいキャラクターをだしても、読者の心に何の波風も起こさないような漫画ってありますよね。人の心を揺さぶるのは、絵じゃなくて「気迫」かもしれない。その気迫は、好きな映画を思い出して「俺もあんな漫画が描きたい!」っていう気持ちから生まれるんじゃないかな。面白い映画っていうのは漫画家にとってエネルギー源ですね。

(聞き手・宮嶋麻里子)

 

  監督・脚本=フランシス・ベベール
  製作=米
  出演=ニック・ノルティ、マーティン・ショート、サラ・ローランド・ドロフほか
ふじた・かずひろ
 代表作に「うしおととら」「からくりサーカス」など。最新作「双亡亭壊すべし」(少年サンデーコミックス)全25巻が発売中。
(2020年12月10日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)