助手席に乗った無愛想な白い犬とオジサンの組み合わせの映画ポスターに引きつけられて、劇場まで見に行きました。
舞台はアルゼンチンのパタゴニア地方。長い間勤めた仕事をクビになり、職探し中の主人公が、道路で立ち往生していた女性を助けたお礼に、血統書付きの「ドゴ・アルヘンティーノ」というオスの大型犬を半ば押しつけられた形でもらうんです。「ボンボン」と名付けられた犬とともに、行き先で出会う人たちにいろんな場所に連れて行かれたり、ドッグ・ショーに出たりするのですが、「この人、だまされへんのかな」ってくらい、とにかくこのオジサン、人が良い。
私はロードムービーが好きなんですが、物語にあるユーモアとペーソスに魂を揺さぶられるというか、心の琴線に触れるんですよね。
主人公は失職した上に、家族との縁も薄くて、全体的に貧しい感じがあるんです。パタゴニアの風景も荒涼としているし、哀愁が漂う。ショーで好成績だったボンボンの交配で利益を得ようと人間たちが画策するんですが、ボンボンは人の思惑に反した行動を平気でする。終盤で、ボンボンを見てオジサンが「やるな、こいつ」みたいな、にんまりと笑う表情は、人生は思い通りにはいかないなぁと思えておもしろかったですね。
犬の映画って飼い主への忠誠や愛着が基軸になりやすいですが、ボンボンは相棒のような人間臭さがあるのかな。人にこびない、ブサカワな感じもすごく好きだけど、何より人を食ったような表情にユーモアを感じます。
(聞き手・吉﨑未希)
監督・原案=カルロス・ソリン
製作=アルゼンチン
出演=フアン・ビジェガス、ワルテル・ドナードほか マツモトヨーコ
1958年生まれ。小説「コーヒーが冷めないうちに」(川口俊和著、サンマーク出版)の装画のほか、新聞や雑誌などのイラストを手がける。 |