名作映画を見あさっていた大学時代に出会いました。平凡な男・トゥルーマンが自身の人生がテレビ番組として放映されていると気付き、監視された世界から抜け出そうと決意する物語です。
トリッキーな映像が多いのがすごく好みなんです。トゥルーマンにだけ雨がついてきたり、月がサーチライトになったりするシーンや、鏡やカーステレオ越しの隠し撮りの構図などなど。SFではなく、あくまで日常が再現された中にこういう非日常的な動きがあるのがすごくおもしろいんです。演出を変えればすごく怖くて重たい映画にもできそうな主題ですが、ジム・キャリーのキャラクターも相まって明るく楽しめます。
特に印象に残っているのは、結婚写真の中で奥さんが指をクロスさせていたことにトゥルーマンが気づくシーン。写真は一見すごく幸せそうなのに、実は彼女が神に許しを請うていた、というギャップが同時に表現されているんです。
私も、そういうサインのようなものを大切にしていて。露骨に悲しんでいる、笑っている、という表情を描かず、別の示唆するものを描いて感情を表現しています。線や形はなるべくシンプルに普遍的にして、見た人がひょっとして自分のこと?と感じられたらいいなと思っています。
今回のイラストでは、トゥルーマンがハリボテの空と海の境界を歩く一番好きなシーンと、それを見ている視聴者を描きました。番組を見ているつもりがその自分の姿も撮影されていたとしたら……。自分の人生がだれかの脚本通りのものでないことを祈るばかりです。
(聞き手・高木彩情)
監督=ピーター・ウィアー
脚本=アンドリュー・ニコル
製作=米 出演=ジム・キャリー、エド・ハリスほか unpis(ウンピス)
福島県生まれ。ユニクロ、IKEA、ミスタードーナツ、ルミネなどの企業広告のイラストを手がける。初作品集DISCOVER(グラフィック社)発売中。 |