あるミニコミ誌の投書欄に、「フランチェスコについて教えてください」という一文が載っていたのです。フランチェスコ。明るく澄んだその響きに魅せられてしまって、逆に投書の主に手紙で尋ねると、アッシジの聖フランチェスコをさすこと、今その半生を描いた映画が上映されていることを教えてくれて、東京・八王子の名画座で見たのが今から50年近く前、19歳のときでした。
豪商の息子フランチェスコは戦争に赴き、病に倒れます。伏せっていると、窓辺に光が差し、小鳥がいるのに気付く。小鳥を追って足元をふらつかせながら屋根の上に立つと、青空と平原が見渡す限り広がっている。絵はそのシーンです。
ぼく自身、10代は悩める時期でした。色覚に困難があり、大好きな絵を学校で勉強する道も当時はなく、未来は閉ざされている気がしていた。心に闇を抱えていたそんなときに、世界を喜びをもって受容するあのシーンを見たのです。人生の見方が逆転するようなショックを受けました。フランチェスコという人物をもっと知りたい。本をたくさん読み、長野の山奥にフランチェスコ派の修道女の方が藁葺きの庵で暮らしていると聞き、一緒に農村で奉仕活動をしていたこともあります。
その後、東京・岩波ホールで映画の仕事をしながら絵も描くようになり、絵本第2作「フランチェスコ」(1992年刊)は国際的な賞もいただきました。ウクライナ情勢による「力には力を」という風潮の中で、ひるむことなく愛や平和への思いを率直に表していく。この映画を見直すたびにそこへ立ち返れます。
(聞き手・服部誠一)
監督・共同脚本=フランコ・ゼフィレッリ
音楽=ドノバン
出演=グラハム・フォークナー、ジュディ・バウカーほか はらだ・たけひで
1954年東京生まれ。岩波ホールに44年間勤め、約60カ国約260の映画公開に携わる。ジョージア映画祭主宰。画家・絵本作家として作品多数。 |