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塩川いづみさん(イラストレーター)
「ラビリンス 魔王の迷宮」(1986年)

大人になっても 心にファンタジーを

ラビリンス 魔王の迷宮(1986年)

 空想が大好きな15歳の少女・サラが、魔王に連れ去られた弟を捜すために冒険を繰り広げるファンタジーです。私も空想好きの子どもだったので、映画を見たときは純粋な気持ちでサラに自分を重ね、物語に入り込んでいました。

 まっすぐな道に実は曲がり角があったり、隠れ扉や落とし穴があったりと、サラの行く道が迷路になっていて。小学校の通学路を歩いているとき、入り口を見つけたら私もあの世界に入っていってしまうのではと、1人でどきどきしていましたね(笑)。あの頃は空想の世界のほうが現実に近いような、そんなことを考えていました。

 大人になって見ると、サラよりもデビッド・ボウイが演じる魔王に感情移入してしまいます。妖艶で格好いいけれど愛に飢えていて、ちょっと寂しそうな雰囲気から「あの人の私生活はどんな感じなんだろう」って。子どもの頃には考えもしなかったですね。物語にたくさん登場するゴブリンのキャラクターたちは、今ならCGになるところがほとんどマペット(操り人形)で、愛らしさや個性、見た目もそれぞれ魅力的に表現されている。「本当にあの世界に存在するんだ」って思えるほど命が込められていて、今見ても人形であることを忘れてしまうほどです。

 コロナや戦争など、最近の世界情勢はシビアなので、今のほうがファンタジーの世界に入りたくなります。現実を見過ぎて重たくなった体に、もう少し飛べる力があったことを思い出させてくれるような。そんな存在の映画なので、行き詰まったときに見たいです。

(聞き手・片山知愛)

 

 監督=ジム・ヘンソン
   製作国=米
   製作総指揮=ジョージ・ルーカス
   出演=デビッド・ボウイ、ジェニファー・コネリー
しおかわ・いづみ
 イラストレーター。映画のポスターや本の装丁画、広告などを手がける。初の本格的な作品集が玄光社から発売中。
(2022年6月10日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)