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安部祐一朗さん(色鉛筆画家)
「世界から猫が消えたなら」(2016年)

大切な人との日々 それは宝石

安部祐一朗さん(色鉛筆画家)<br>「世界から猫が消えたなら」(2016年)

 余命わずかと宣告された主人公の青年が、大切なものと引き換えに命を永らえるかどうか、という選択を迫られる物語です。

 私は大の猫好きで、タイトルにひかれて映画館へ足を運びましたが、思いがけずとても感動したのを覚えています。その後、DVDを何度もくり返し見たり、原作小説を読んだり。初めて映画を見た中学生の頃は、物語をあまり深く理解できていなかったように思いますが、年齢を重ねて気づかされることも多く、当たり前の日常がいかに尊いか、ということを教えてくれた作品です。心に残っている作中の言葉がいくつかありますが、なかでも生まれたばかりの主人公に父親がかけた「ありがとう」というセリフが印象に残っています。

 イラストは、主人公の飼い猫「キャベツ」を描きました。右目に、「クリソベリル」という鉱物のなかでも、光を当てると猫の目のように縦線が入る「キャッツアイ」を採り入れています。目の下には、猫が流した涙のように、同じ宝石の原石を配置しました。動物と宝石を融合させたモチーフは、私の作品の特徴の一つです。

 クリソベリルの宝石言葉は、「慈愛」。映画の主人公が、両親や周りの大切な人たちから受けた愛情と重ねて、この宝石を選びました。また、いつか猫を描く機会があればぜひこのキャッツアイと融合させたいと思っていたので、念願がかないました。画材は色鉛筆で、かかった時間は100時間くらい。猫の毛を描く際、鉄筆(てっぴつ)と呼ばれる画材で紙に凹凸を作り、その上に色鉛筆を重ねて印影を表現しています。

(聞き手・高田倫子)

 

 監督=永井聡
   原作=川村元気
   脚本=岡田惠和
   出演=佐藤健、宮﨑あおい、濱田岳、奥田瑛二、原田美枝子ほか
あべ・ゆういちろう 2002年京都市生まれ。
 高校入学後、独学で色鉛筆画をはじめる。スタンド・ストーンズから、カプセルトイを来年1月発売予定。
(2022年10月14日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)