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笹尾真さん(紙による文字の造形作家)
「羅生門」(1950年)

ざあざあ降りの雨 際立つ造形

 さかのぼること3日前。むせ返るような真夏日の山中で侍が殺害されます。容疑者の盗人、侍の妻、侍。それぞれの視点から真相を探るけれど、3者の証言は互いに食い違う。一部始終を藪の中で目撃した木こりが語る真相は……。

 友人の薦めで10代後半から20代前半に見ました。趣味が高じて映像関係の仕事に就いたほど、学生時代は映画にふけってましたね。

 タイトルは羅生門でも、芥川龍之介「藪の中」が原作です。事件をたどりながら、羅生門での考察の場面を交えて、物語は進んでいきます。

 藪の中には木漏れ日が差し、一方の羅生門はざあざあ降りの雨。雨のカットは特に黒がハッキリしていて、荒廃した羅生門の造形が際立ちます。執着して撮影したのだと伝わる、圧巻の映像美。見ていて胸に迫るものがありますね。

 作品は凹凸のある紙・マーメイドを80枚重ねました。上から下にかけて広がりをなすように、1枚ずつ設計図を描き、カッターで切っていきます。雨は、羅生門をつつんで、遠くから、ざあっと云う音をあつめて来る。ーー普段は古典文学の冒頭を題材にしますが、映画を象徴するのは雨だろうと。芥川「羅生門」の序盤から選びました。

 僕は自作には意図的なタイトルを付けません。「積む」とか「重ねる」とか名付けて、過程を示すくらい。太宰治「富嶽百景」をテーマにした時に、同じ形でも色によって評価が分かれたことがありました。三者三様、解釈が違うのは羅生門に限らないから面白い。この造形も解釈は見る方に委ねたいです。

(聞き手・島貫柚子)

 

 監督=黒澤明
   原作=芥川龍之介
   脚本=黒澤明、橋本忍
   出演=三船敏郎、森雅之、京マチ子、志村喬、千秋実ほか
ささお・まこと 
 1964年生まれ、神奈川県出身。千葉大学工業意匠学科卒。同県大磯町の鴫立庵や旧島崎藤村邸に作品を常設展示。
(2022年10月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)