戦後間もない地方都市の市民楽団が、苦労しながらプロに成長するという、群馬交響楽団の草創期の実話を基にした映画です。見るたびに号泣して、映画館では他の観客を見送り、涙を拭いてようやく引き揚げる、そんな一作です。
チーム一丸になって艱難辛苦を乗り越える……、そういう展開に弱いんだね、僕は。
地元の学校に訪問しても、聴衆のほとんどは居眠りしたり、ふざけあっていたり、まともに耳を傾けない。しょげて帰る道すがら、待ち伏せる少女に出くわし、岸恵子が演じるピアニストに花束を渡すんです。それまでの暗い気持ちがたった1人のファンのおかげで吹き飛んでしまうというシーンが感動的で、今も涙腺が緩んでしまう。
でも楽団は相変わらず手弁当での運営で、生活苦と隣り合わせ。自転車操業となる場面も浮き彫りになります。いよいよ立ち行かなくなり、解散を決めた楽団が、最後の訪問先に選んだのは山間部の分校。大歓待で迎えられ、なじみのない楽器を「お父さん」「おじいさん」などと紹介し、笑いを誘います。目を輝かせる子どもたちを尻目に先生からは、辺境のゆえにこうした機会は二度とないだろうと聞かされ、演奏を終えます。引き揚げ際、山にこだまする子どもたちの「赤とんぼ」の歌声が胸にせまり、目頭が熱くなるんです。
ファンから初めてもらった花束を中央に、地道な市民楽団の活動を続けた彼らと大切な楽器たちで囲むように、水彩で描きました。音楽が持つ力とチーム力が成し遂げた金字塔ですね。
(聞き手・鈴木麻純)
監 督=今井正
脚 本=水木洋子
出 演=岸恵子、岡田英次、小林桂樹、山田耕筰、加東大介、草笛光子ほか おかざき・たけし
大阪府出身。高校の国語講師などを経て、ライターに。近著に「ドク・ホリディが暗誦するハムレット」(春陽堂書店)がある。 |