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古屋兎丸さん(漫画家)
「世界で一番美しい少年」(2021年)

崇拝した「ベニスに死す」の帰結

古屋兎丸さん(漫画家)<br>「世界で一番美しい少年」(2021年)
古屋兎丸さん(漫画家)
「世界で一番美しい少年」(2021年)

 映画「ベニスに死す」を初めて見たのは高校生のときでした。貴族出身であるビスコンティ監督の高貴な雰囲気の物語作りに心を揺さぶられました。ビョルン・アンドレセンの美しさが、映画にばっちりハマっていて、この年になるまで、ことあるごとに見返しています。「世界で一番美しい少年」は、ビョルン自身が、50年以上前の撮影当時を振り返るドキュメンタリーです。

 数年前に彼が出演する別の映画「ミッドサマー」を見て、容姿の変化や役柄にギョッとする衝撃を受け、それからさらにこのドキュメンタリーを見て、昔から思い入れがある「ベニスに死す」に対しての答え合わせができたのだけれど、すべてが転覆して、オセロが真っ白、真っ黒になったみたいな、そういう印象でしたね。

 ドキュメンタリーで回想される当時の撮影やオーディションの様子は、生々しく、痛々しく、見ていてつらい内容でした。今まで無邪気に「ベニスに死す」を崇拝していた自分に罪悪感を持った気持ちもありました。

 ただ、このドキュメンタリーを見たことで、「ベニスに死す」を嫌いになることはありませんでした。年齢を重ねると大きな物語の帰結を見られることがあります。このドキュメンタリーによって「ベニスに死す」も、自分にとってようやく帰結を迎えたというか。ここまで生きていてよかった、これを知らないで死ぬのと、知って死ぬのとでは違うなって気がしましたね。イラストは、若き日のビョルンと現在のビョルンを描きました。

(聞き手・宮嶋麻里子)

 

 監 督=クリスティーナ・リンドストロム、クリスティアン・ペトリ
   製作国=スウェーデン
   出 演=ビョルン・アンドレセンほか
ふるや・うさまる
 1968年生まれ。代表作に「ライチ☆光クラブ」「帝一の國」など。近作「ルナティックサーカス」(新潮社)が発売中。
(2023年1月6日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)