日本人女性のサチエさんがヘルシンキで開いた「かもめ食堂」を舞台に、物語が繰り広げられます。最初に見たのは二十歳のとき。初めてフィンランドへ行くのに、旅行前の情報収集として見たんです。そのときには、自分がここに一目ぼれして暮らしたいと思うこと、すし職人になって移住することなんて全く思いもしませんでした。
人と人との距離感や、ゆったりとした時間の流れが見ていて心地良い。フィンランドのライフスタイルが溶け込んでいるような映画だと、実際に来てみてわかりました。強烈な一目ぼれの要素が実は映画の中にありました。
サチエさんは、私にとってのロールモデル。無理しない人なんです。自分らしさがそのまま価値になるような生き方ができたら、とても幸せだと思います。夢を諦めそうになるのは、頑張りすぎてしんどい時や、先が見えない時。ついつい頑張りがちな私の肩の力も抜いてくれました。
映画のゆったりした時間に、自分の体内時計の速度を合わせるよう見ることもあります。時には、シナモンロールを作るBGM代わりとして。焼いている15分の間に広がるシナモンとカルダモンの香りは、現地のコーヒー店と全く同じ。日本にいながらもフィンランドを感じられて、深夜に突然思い立って作り始めることもありました。
映画は「フィンランドのかもめはでかい」って言葉から始まります。本当にそうなんです。見かけると、その言葉を頭の中に再生しちゃいます。映画の世界の中にいるなって思いながら、かもめを見るのがお気にいりです。
(聞き手・伊東哉子)
監督・脚本=荻上直子
原作=群ようこ
出演=小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ、マルック・ペルトラほか
しゅうまつほくおうぶ ちか
1988年大阪府生まれ。フィンランドで暮らすため、会社員からすし職人へ転身。3月23日に「世界ともだち部」(講談社)が発売。
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