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田崎冬樹さん(平面造型作家)
「プリデスティネーション」(2014年)

「鶏が先か、卵が先か?」 輪廻する世界

 映画に限らず、よくできているものが昔から好きです。ロボットアニメやホラー小説、VFX。日常をふっと忘れる。作品に没頭しているとそんな時間がありますよね。

 タイムスリップしながら連続爆弾魔を追いかける時空警察官(イーサン・ホーク)。そして、自分の人生を壊した男を探す青年ジョン。この2人を中心に映画が動きます。細かな描写も凝っていて、SFだけど現実味がありますね。タイムスリップの衝撃で車の窓ガラスが粉々になったり、キャラクターの呼吸が乱れたり、記憶障害になっちゃったり。ジョンが「私が“少女”の頃……」と告白する場面は引き込まれました。ある時までは、ジョンはジェーンという女性だったんです。

 フィルム・ノワールのような世界観。ぐるぐる回る輪廻(りんね)の時間をクラシックな風合いで描きました。背景は僕が映画から感じた色、モチーフは「ルビンの壺」。心理学で昔から使われる反転図形で、ネガとポジ、どちらに焦点を当てるかによって人にも壺にも見えるんです。女性と男性の顔を持つジョンを象徴する気がしました。

 始まりも終わりもないこの映画を物語る、「鶏が先か、卵が先か?」というセリフも印象深いですね。映画のメッセージは「視野を広く持て」ということだと感じました。僕も「電線って、すごく邪魔だな」と眺めるうちに複雑な絡まりに興味を抱いて、街をトリミングした絵を描くようになりました。何げないモチーフを探して、アンテナを張りながら街を歩き回っています。

(聞き手・島貫柚子)

 

 監督=マイケル・スピエリッグ、ピーター・スピエリッグ
   出演=イーサン・ホーク、サラ・スヌーク、ノア・テイラーほか
たざき・ふゆき 
 1971年東京都生まれ。東京芸術大学大学院修了。横浜美術大学准教授。「視覚デザイン」などを教える。
(2023年6月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)