読んでたのしい、当たってうれしい。

現在
57プレゼント

【SPECIAL】Don't  let  me  shoot  those  girls!
高岡香苗「テルマ&ルイーズ」を語る

 動物や花など生活のなかにあるモチーフをデフォルメし、独自の色づかいで生き生きと描く、東京芸大出身で画家の高岡香苗さん。グッとムービーの一本に選んだ映画は、アカデミー賞で監督賞や主演女優賞など6部門にノミネートされた「テルマ&ルイーズ」。過去4回見るなかで時代やライフステージが変わり、見方も変わっていったというその映画の魅力に迫りました。(聞き手・島貫柚子)

 

  

◇高岡さんによるキャラクター紹介

テルマ(ジーナ・デイビス)…専業主婦。心配性。一見なよっとしてるようで、内に狂気を秘めている。

ルイーズ(スーザン・サランドン)…ウエートレス。しっかり者。凜としている。

ハル刑事(ハーベイ・カイテル)…観客の代弁者。ルイーズの過去を知っている。

テルマの夫(クリストファー・マクドナルド)…まあまあひどい。なんでこいつと付き合ったんだろう。

ルイーズの彼氏(マイケル・マドセン)…いい彼氏。

J.D.(ブラッド・ピット)…ヒッチハイカー。強盗の再現シーンのしゃべり方がいい。

 

◇高岡さんによる「テルマ&ルイーズ」のあらすじ

テルマとルイーズは、親近感が沸くふたりというか。めちゃめちゃ金稼いでるOLとかじゃなくて、どこにでもいるような専業主婦とウエートレスです。このふたりが不安になるぐらい広大なアメリカを旅するなかで、立ち寄ったバーでレイプされかけて相手を銃殺してしまいます。逃亡犯としてメキシコを目指すことになったふたりは傷つきながらも強さ、友情、知らなかった自分さえ知っていく。アーカンソーの街に留まっていたらずっとわからなかっただろうことが、ひとつずつ顔を出します。それが面白いロードムービーですね。

 

 

 ――「テルマ&ルイーズ」(1991年)を選んだ決め手はなんでしょうか。

 

 主人公ふたりを描きたい、と思ったからですね。去年久しぶりに自画像を描いたら人間を描くのが楽しくなっちゃって。アル・パチーノ主演の「セント・オブ・ウーマン」とどちらにするかだいぶ悩みました。恋愛っぽいタイトルなんですけど全然そんなことはなく、この映画も素晴らしいんです。

 

なにかと不便だった1990年代

 

 「テルマ&ルイーズ」が劇場公開された1990年代、私は大学生でモラトリアムを謳歌していたというか、解放されたって感じで映画を見まくっていたんですね。ホドロフスキー、タルコフスキー、デビッド・リンチ。「ベティ・ブルー」みたいなフランス映画とか、怖い映画も見ました。「羊たちの沈黙」はもう、超~怖かった。あの頃はスマホもないし、サブスクもなかったので、今とは映画の重みが違った気もするんです。当時「ツイン・ピークス」っていうデビッド・リンチが監督したドラマが大人気で。続き見たさに、レンタルビデオ屋さんに行くんですけど、いっつも誰かに借りられていて。みんながいっぺんに楽しめる娯楽って映画ぐらいでしたね。 

 

 ――「テルマ&ルイーズ」は公開当時、映画館で見たんでしょうか。

 

 そうなんです。満員でもない時間帯で、大学が上野なので有楽町の映画館だったような。リドリー・スコットが、SF映画「ブレードランナー」(1982年)でみんなのハートを鷲づかみにしていて。だた思い描いたようなCGとかは出てこなかったので、最初は「どっから、リドリー・スコットみたいになるんだろう」という気持ちで眺めていました。

 でも今振り返ればあれは意外でもなんでもなく、普通のことだったんだろうとも思うんです。映画監督もオファーがあって作品を作るから、自分らしさよりも求められる映画を撮る。自分は何をしたいのか。どこかで社会から認められたい気持ちもある。自分らしさと、共感性の戦いですよね。

 

60代、70代になっても見たい映画

 

 だいたい10年おきに4回見ています。学生だった私が、社会人になって、結婚して。時代背景やテルマたちと年齢が交差するなかで、感想にも変化がありました。

 

1回目の鑑賞 1991年(湾岸戦争勃発、バブル崩壊)

 映画の2時間のなかで起こる、テルマとルイーズの変化が面白いですね。おしゃれなジャケットにスカーフとか巻いていたのに、最後はボロボロのTシャツ姿。性格もみるみるワイルドになっていきます。ヒッチハイカーのブラピに逃亡資金を盗まれたあたりから、テルマとルイーズの関係も逆転しますね。結婚しているテルマ、働いていてるルイーズ、私は大学生。この時は完璧に年下でした。

 

2回目の鑑賞 2000年(米大統領選でブッシュ氏勝利、シドニー五輪で高橋尚子選手らが金メダル)

 30代にさしかかった頃でした。若いけど頑張ろうとしてた時期っていうんですかね。男だとか女だとかではなく、仕事で認められたかった。だからセクハラとか、パワハラとか、“からかう”程度のことがあっても、受け流すのがうまくなっていたんですよね。それに痴漢とかストーカーに遭ったとしても、被害に遭う方に落ち度があると言われてしまう時代でもあったというか。とがめられるかもって想像すると、親にも相談できなくて。実際はどうだったかわからないんだけれど。まあ女性としての部分を見せずに生きていたっていうのかな。そんな時期だったので、映画を見ていたらふと、「ばかやろう」って言葉が込み上げてきたんですよね。

 アメリカと日本。まったく文化的な背景は違うんですが、女性としてある意味自由に、仕事でも、パートナーのことであっても縛られずに生きる道を選んだテルマとルイーズ。日本では本当に叫んじゃったら生きづらくなるんですが、映画のなかで彼女たちの振る舞いが、私のモヤモヤした気持ちまで発散させてくれるんです。

 

3回目の鑑賞 2015年(ギリシャ金融危機、ラグビーW杯で日本躍進)

 そういえばこれ面白かったなあって感じで見始めました。気が付けば私がテルマとルイーズの年齢を追い越していましたね。テルマの旦那さんって、まあまあひどいんですよ。浮気しているし、横柄だし。テルマが逃亡先から自宅に電話をかけてきて、旦那さんがハローって応じるシーンがあるんですが、テルマは警察に盗聴されていることを察して瞬時に電話を切る。ほんの一言の会話なのに、旦那の様子が普段と違うことに気が付くんですよね。私も毎日夫と一緒に生活しているので、ああいう電話みたいな些細な変化でも気が付くだろうなって。ささいな描写が笑えるのは、やっぱり現実味があるからでしょうね。

 

4回目の鑑賞 2023年 (新型コロナ「5類」に引き下げ、WBCで侍ジャパンが世界一奪還)

 今まで3回はフェミニズム的な視点で捉えていましたが、今回初めて、女性に限らずささいな問題って誰しも抱えてるんだよなあと思いました。「テルマ&ルイーズ」って、人間の「自己解放」がテーマだと思うんです。なにも大きな事件じゃなくて、ご近所づきあいや、職場の人間関係とかちっちゃなストレスって誰しも抱えていますよね。でもテルマたちみたいにちょっと強くなれれば、ささいなことに左右されずに、ご機嫌に生きていけるんじゃないかなって。

 こうやって振り返ると面白いですね。60代、70代と年を重ねても、また見たくなりました。

 

ハル刑事のセリフ

ハル刑事:Don’t let me shoot those girls .It is too much.

(あの子たちに発砲しないでくれ。やりすぎだ)

FBI :Jesus, women are armed. This is standard.

(バカ言うな。相手は武装してるんだ。)

 

 クライマックスで窮地に追い込まれたふたりを前に、ハル刑事が、”あの子たち”を追い込まないでくれとFBIに訴えるシーンがあって。英語だと、”あの子たち”が、”girls”なんですよね。womenとか、ladiesじゃなく。そこにすごく共感しました。彼女たちは犯罪を犯したくて犯したんじゃない。事件に巻き込まれた「未成年」なんだって言われている気がしてしまう。もちろん、犯罪にしょうがなくもなにもないんだけれど。

 そんなセリフに触発され、グランドキャニオンの土はやや赤系ということで、ガール度の高いピンクをイラストの背景にしました。狂気のなかにあるハッピーさを表現しています。

 

 ―― テルマは気弱、ルイーズはしっかり者と対照的です。高岡さんはどちらに似ているでしょうか。

 

 たぶんルイーズですね。私は長女で、しっかりしていると思われがちなんですが、心の中には弱さもある。長く先生業をやってきて思うことなんですが、弱そうに見える女性って、実はコアな部分は強い人が多い。逆に強そうに見える人は、弱い部分を抱えてるからこそ強く見せている気がするんです。旦那に文句ひとつ言えなかったのに、親友のために強盗をはたらく。あんな風に変身を楽しめるテルマには憧れてしまいます。

 

 ――テルマとルイーズは旅の中で衝突しながらも、やがて固い絆で結ばれていきます。ご友人と「雨降って地固まる」という経験はありますか?

 

 高校のときにバスケ部だったんですが、死ぬほど大変だった時期を一緒に乗り越えた友達は、そうかもしれません。相手が困ってたら、めっちゃ助けたいって気持ちがあるかも。些細なことでも、テルマたちみたいに車に乗りながら、豪快にやってのけたいですね。

 

あれはハッピーエンドに見える

 

 ――もしもテルマたちと同じ状況陥って、人をあやめてしまったとしたら?

 

 そこが、いつも考えちゃうところなんですよね……。見ている私も困っちゃって。この映画が好きなので、本当は彼女たちみたいに派手に暴れ回って、最後は崖めがけて飛びたい。でも実際そんなことになったらどうするんだろう……。決められないですね。

 

 ――自首するか、逃げるか。私は自首しても好転しないだろうなと思ったら、テルマたちと同じ道を辿ってしまうかもしれません。

 

 難しい立証ですよね。最後ハル刑事が2人を追いかけるじゃないですか。それにすごく救われるというか。この映画の登場人物も、世間と同じくまんざら変な人ばかりじゃない。

 グランドキャニオンをバックに、ぼろぼろのテルマとルイーズの顔が交互にアップされるだけのシーンなのに、なぜか泣けてくるんですよね。演技が上手すぎる。あのロケ地、実際行ってみたら人生観変わりそう。

 衝撃の結末を迎えますが、私にはあれがハッピーエンドに見える。ふたりには、あのままどこまでも飛んでいって欲しいですね。

 

 ――こう終わるのか……と衝撃でした。あと1秒でも映ったら結末が確定してしまいますが、宙ぶらりん。だからこそ想像力をかき立てられますね。最後に、高岡さんにとって「テルマ&ルイーズ」はどんな映画でしょうか。

 

 「プロフェッショナル」っていうか、ババーン!ってやつですね。どんな映画、か……。ご機嫌になれる映画ですね。心がちょっと重くなってくると、電車乗るのも嫌になっちゃう。でも心を自由にできれば、またうまく歩いていける。それが「テルマ&ルイーズ」を見る私の基本なんだと思います。

 

略歴

 たかおか・かなえ 1969年千葉県生まれ。1996年東京芸術大学大学院修了(終了制作デザイン賞受賞)。現在横浜美術大学でイラストレーションコースの非常勤講師を務める。百貨店、画廊での個展、台湾をはじめとする海外の芸術祭に出展。7月11日~23日(18日を除く)、東京・千駄ケ谷の佐藤美術館でグループ展「描画図鑑」を開催。22日14時からトークショーも。

http://sato-museum.la.coocan.jp/exhibition/

 

 

 

  

編集後記

 編集後記の場を借りて、高岡さんに宛てた手紙のようなもの、北千住の星野珈琲店でおすすめいただいた映画・ドラマへのレビューを書いてみようと思います。私は1994(平成6)年生まれでして、3本とも生まれる前の作品でした。

 

ダンスシーンで泣ける

「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」(1991年、アメリカ、マーティン・ブレスト監督)

 正しさとは何か。人間は良心を失ってしまったのか。

No mistakes in the tango. No like life.(人生と違って、タンゴに間違いはない)

If you’re tangled up, just tango on.(人生でつまづいても、また踊り続ければ良い)

 なんといっても、アル・パチーノの演技ですね。瞬き、呼吸、乱れた前髪まで、暗闇を歩むことになった盲目の退役軍人そのものに見えました。積乱雲に覆われたようなアル・パチーノの心に晴れ間が差すレストランでの一幕。アル・パチーノとドナがレストランのステージの中央に向かい、伸びやかな弦楽器の音色に導かれて、緊張した足取りでタンゴを踊り始める。凛々しいピアノの和音が混ざって転調。よろけて笑みがこぼれるふたり。場内はフォルテで最高潮を迎えて、リタルダンドで締めくくられる。高岡さんが大泣きしてしまうというのも、たいへん納得です。

 

 狂おしく、おしゃれで、ものがなしい

「ベティ・ブルー」(1986年、フランス、ジャン=ジャック・ベネックス監督)

 狂おしく、おしゃれで、ものがなしい。エネルギーを使うので、また見たいかと尋ねられると微妙なところではありますが、結構好きです。自分の才能に自信を持てないゾルグ、ここにないもの求めてやまないベティ。自分を愛せない分、相手にありったけの愛を注ぐふたり。映画を眺めながら、私の頭にはかぐや姫「神田川」が流れていました。広くはないアパート。若いふたりに怖いものなどない。ゾルグが意を決してまくらを手にしたときに、自分の血の気が引くのを感じましたが、ゴミでピザを作るなどユーモアたっぷりにベティの仕返しをするゾルグは素敵でした。

 

 90年代に大ヒット!

「ツイン・ピークス」(1990年、アメリカ、デビッド・リンチら監督)

 まだ途中なのですが……このドラマ、やばいですね。不穏な雰囲気に包まれた架空の街ツイン・ピークスで起こる少女の死をめぐる群像劇。登場人物がみんなどこか変態的で、それでいて愛らしい。そんな奇妙なキャラクターが現れるたびに口角があがってしまう自分は、リンチの描くキャラクターに似ているのかもしれません。

 かつて林業が主産業だった土地を取材で訪れた際に、建物に米松、ダグラスファー(douglas fir)を使っているのだと説明を受けたことがあります。ダグラスファー。歴史上の人物のような響きに魅せられ、それから半年ほど記憶の片隅に漂っていたのですが、クーパー刑事(ドーナツ好き、敏腕)がドラマの中でこの単語を発するんですよね。ダグラスファー。びっくりしてしまいました。クーパー刑事は次いつダグラスファーと言うんだろう。もう1回ぐらい聞きたい。そんな妙な観点も携えて、残りのツイン・ピークスを楽しんでいます。

 タイムリープできるのなら、リアルタイムで「羊たちの沈黙」を見て、ツイン・ピークスを求めてレンタルビデオ屋さんに通う90年代の学生になってみたい。そんな気持ちが湧きました。

(島貫柚子)

 

(記事・画像の無断転載・複製を禁じます。すべての情報は公開時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)