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岩崎う大さん(お笑い芸人・脚本家)
「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」(1985年)

喜劇と悲劇入り交じり 転がるように

 主人公の少年がヌード画家を訪ねるシーンが特に好きです。モデルの女の人が「怖いから」と、少年を一緒に連れて行く。画家にしてみれば「子供は邪魔だな」と思う一方、少年は少年で女の人の裸を見たかったのか、屋根に上っていく。すると屋根のガラスが抜けちゃって……みたいな。登場人物たちが、物語のために生きているというよりは、好き勝手に考えたり動いたりして物語自体が転がっていくようなところが好きなんです。

 少年は、「僕の人生がどんなに悲劇でも、人工衛星に乗って宇宙に飛ばされたライカ犬よりはましだ」と、まるで呪文のように思っています。この映画のお話は、楽しい瞬間にもどこか寂しい感じがするし、悲しい瞬間もユーモアがあふれている。現実の世界って喜劇と悲劇が常に入り交じっている感じがするのですが、その配合に近い気がします。光があれば影が生じるように、完全な漆黒というのはあり得なくて、必ず光は存在する、っていうのかな。そういう光のグラデーションを行き来するような映画ですね。

 そういえばさっきのシーン。小学生のころ、どこか似た経験があったことを思い出しました。母親が、マッサージを受けに行くと言い始め、「先生が変な気を起こさないように」と一緒に連れて行かれたんです。母親だけが診察室に入り、僕は廊下で学校の笛を練習していた。その廊下がすごく怖くて。ちょっと笛をやめると、母親が「大丈夫?」って心配そうに呼ぶのが聞こえ、僕はヒソヒソとまた笛を吹き始める。とまあ、はたから見たらコントですよね。

(聞き手・島貫柚子)

 

 
   監督・共同脚本=ラッセ・ハルストレム   

 製作国=スウェーデン   

 出演=アントン・グランセリウス、メリンダ・キンナマンほか

 

いわさき・うだい 1978年東京都生まれ。2007年、槙尾ユウスケと後の「かもめんたる」を結成。7~12日、東京・東池袋「あうるすぽっと」で「ゾンビいまさら」を公演予定。

劇団かもめんたる第13回公演「ゾンビいまさら」

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(2024年2月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)