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【SP】悲劇も、喜劇も、あるある
岩崎う大さん「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」を語る

 お笑いコンビ、かもめんたるの岩崎う大さんに、憧れの映画という「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」(1985年、ラッセ・ハルストレム監督)への思い、幼少期のお話、相方の槙尾ユウスケさんについてインタビューをしました。

(聞き手・島貫柚子)

 

―― 映画「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」を初めて見たのはいつでしょうか。

 

 たぶん20歳ぐらいだと思います。この映画自体は高校時代ぐらいにファッション雑誌か何かのレンタルビデオ紹介コーナーに載っていたんですよね。その時も上映中だったってことはないと思うんだけど。ある少年が、「僕の人生がどんなに悲劇でも、人工衛星に乗って宇宙に飛ばされたライカ犬よりはましだ」みたいなことを思うというあらすじで。この少年はあまり悲劇的にならないようにするために、この言葉を呪文みたいに思っているんです。まあ面白い子供の話なんだろうなとは思いつつ、可哀そうなお話なんだろうなとも思っていました。

 いざそこから数年後、あのとき雑誌で見た映画だ、とレンタルビデオ屋で見つけて実際に見てみたら、ユーモアが至るところにあったんですよね。僕は演劇もやっているんですが、シリアスなテーマのお話をやるときに思うのは、どんだけ悲劇的な瞬間でもユーモアのある視点っていうのは持てるし、悲劇という状況がフリになって悲劇の渦中にある人が何を生むかが笑いになることもある。この映画はいろんなエピソードが登場するけど、そこに全部共感できるんですよね。

 

――Wikipediaによると、一番お好きな映画とのことですが。

 

 一番か……。やっぱりね、そういうインパクトがある映画でもないからさ。よかったな、ってじんわりこう沁みるんですよね。食事とかで言ったら栄養がちゃんとあるお料理なのかな。当時20歳だからね、なかなか若いのに地味だけど滋養のある料理みたいなのを食って「今までで一番うめえ」なんて言わないじゃないですか。それに近いかな。そういうことで言うとこの映画はミニシアター系だと思うんですが、そういうジャンルの中では一位かな。いや。一位っていう称号が似合う映画でもないか。

 

――映画のあらすじを教えてください。

 

 主人公のイングマルは、お母さんの具合が悪くなっちゃったので、田舎でひと夏を過ごす。ノスタルジックではあるけど古い感じでもないですね。102分か。そんなに長くないのもいいな。

 

――この作品でお好きなところは。

 

 ものすごい強烈なストーリーがあるわけじゃないんだけど、この映画が始まるとあるあると共感しながら見れるところが素晴らしいなと思うんです。自分の作品でもこういう風なものができたらな、って。楽しい瞬間にもちょっと寂しい感じがあるし、悲劇的な瞬間にも何かユーモアが存在する。お話だからと悲劇の瞬間にその他の要素が全てなくなってしまうんじゃなくて、光があれば影が生じると同じように、完全な漆黒っていうのはあり得ないのかな、必ず光は存在しているのかな、と感じられる。そういう光のグラデーションを行き来しているようなお話ですね。人生って喜劇と悲劇が常に入り交じっている感じがするんですけど、この映画はそれがすごく現実世界に近い感じがする。

 あとは疎開した先でおじさんおばさんが駅に迎えに来ていて、あの瞬間に理想を打ち砕かれる感じも好きですね。あの辺りも悲劇でもあるけど喜劇でもある。別に大したことでもないんだけど、やっぱそういう経験って絶対人生で必要だと思いますね。面白いなと思うのは、描き方が過剰じゃないところです。

 

――誰に薦めたい映画でしょうか。

 

 おとなしい映画、ミニシアター系の映画に苦手意識がある人に見てもらいたいかなあ。

 

――映画は普段から見ますか。

 

 ジャンル問わず見ますね。最近忙しくてあんまり見れてないなあっていうところはありますけど、いつかは映画を撮りたいなとも思うし。

 

――イングマルは小学生ぐらいかなと思いますが、岩崎さんは幼い頃どんなお子さんでしたか。

 

 うーん。僕は長男で、弟が3つ下にいて妹がさらに3つ下にいるんです。映画と照らし合わせていうと、 弟を泣かせて母親からよく怒られた。もう1ターン早く兄弟喧嘩を終わらせれば怒られなかったのに、こいつのせいで怒られた、と弟に対して恨んでいました。まあ面白いことは好きでしたね。クラスの人を笑わせたりするのが好きだった。クラスの中でも人気者ではあったのかな。

 

――イラストの解説をお願いします。

 

 

 

 デジタルで描きました。やっぱりこの映画はいろんな要素が混じり合っているのが素敵なポイントというか、僕が好きなところなんです。喜劇の部分があったり悲劇の部分があったり。実際日々生きていると自分の中にもすごくいろんな要素がありますよね。僕で言うと芸人の部分もあれば作家という裏方的な部分もあるし、父親であり妻から見たら恋人であり両親から見たら子供。とまあ、すごく複雑ないろんなことが混ざり合って自分になっているんだろうなと感じるんですが、この映画はどこかそれに近いというか。 主人公のイングマルは常に悩みを抱えていて、どっちかって言うと彼は受身ですよね。イラストの中でも配置は中心にいて、いろんなことが押し寄せてきているイメージ。そして彼がひと夏を過ごしたのは自然豊かな場所なので、それも重要な要素として描きました。

 

――キャラクターではヌードを描いている画家がお好き、とのことでしたが、イラストにはいないような。

 

 そうですね。それで言うと、イラストで手をあげているのは下着のカタログを読ませるおじいさんです。

 

―― あのおじいさんでしたか。「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」、ご自身にとってどんな映画でしょうか。

 

 こんな作品が作れたらいいな、という憧れの映画ですね。作り物なんだけど、フィクションとして理想的に現実世界を描ききっている感じがする。本当に優れたフィクションは、ときに自然物を上回ることができるのだなという気がしますね。フィクションを作っている人間として、僕はリアルさみたいのをすごく重視していて、つまり現実の世界っていうのがお手本としてあるんですが、現実がお手本としてある以上それを超えられないのかっていうとそういうわけでもない。ちゃんと現実を手本にしながら、現実をありのまま、いろんな制約がある中で描き出す。その離れ技にやっぱり人が引きつけられて、泣いたり笑ったりできるのかな。

 

 いわさき・うだい 1978年東京都生まれ。2007年、槙尾ユウスケと後の「かもめんたる」を結成。2月7~12日、東京・東池袋「あうるすぽっと」で「ゾンビいまさら」を公演予定。

 

 

(以下は、岩崎さん、相方の槙尾さんそれぞれに別の場所で同じ質問をし、それぞれの回答をまとめました)

 

――かもめんたるでお好きなネタを教えてください。

 

まきお・ゆうすけ

槙尾 まあでも、全部好きっちゃ好きだなあ。「白い靴下」と「言葉売り」ですかね。この2本がキングオブコント2013で優勝した時のネタで、自分の中では大きいですかね。あとは「元カレからの電話」。これはかもめんたるの中では1番ポップなネタです。あとは黒澤明監督の映画の喋り方をモチーフにした「黒澤」ってネタがあって。コンビ組んで1、2年目ぐらいのネタなんですけど、それも好きですね。

 

 

いわさき・うだい

岩崎 うーん……。難しいですね。

 

 

 

 

 

―― 先日、槙尾さんに同じ質問をしたところ、「元カレからの電話」「黒澤」などが好きだとおっしゃっていました。

 

岩崎 その2つは挙げないかな。(笑) 「大根農家のネタ」っていうのがあるんですけど、あれは好きですね。代表的なので言うと「白い靴下」とか。キャラクターが自由に生きてるというか。それで言うと「黒澤」「元カレからの電話」はわりと笑いは大きく起きるけど、ちょっとこう“ネタっぽい”かもしれないですね。

 

―― 相方はどんな存在でしょうか。

 

槙尾 (岩崎さんは)僕をお笑いの世界に導いてくれた人というか、そういう意味では恩人ですね。早稲田大学に入って、最初は演劇の道に進みたいなと思っていたんですね。で、そんな時にうちの相方が部長をやっているお笑いサークルの公演を見て、演劇に通ずるものを感じて。「演劇の笑いがなんか詰め込まれてるバージョン」みたいな。WAGEってお笑いサークルなんですけど、めちゃめちゃ面白くて。最初はお笑いにそこまで深い気持ちはなかったけど、まあこの人と一緒に何かやれたらいいなと思いましたね。

 

岩崎 かもめんたるにとって半分は槙尾なので大きな存在ですよね。……本当にそうなんですよね。かもめんたるは槙尾次第みたいなところがある。槙尾っていう蛇口から出ていると言っても過言ではない気がするな。源流としての僕があっても、結局出て行く先は蛇口しかないから。

 

―― お笑いとは。

 

槙尾 自分を成長させてくれるものですかね、人間的に。たぶんお笑いやってなかったら、社会でのコミュニケーションで苦労していたんじゃないかなと思います。お客さんに満足してもらうという意味では、お笑いって究極的な形だと思うんですよ。 僕はカレー屋もやっているんですけど、お客さんに楽しんでもらうにあたって飲食は料理っていうものを挟んでいますけど、お笑いはそうじゃないから。

 

岩崎 ずっと好きだし、憧れですかね。「お笑い出身なんで」とか自虐的に使うこともあるけど、根底にはやっぱりお笑いへの憧れがずっとある。 「お笑い芸人です」って名乗れるもんなら名乗りたいけど、いろんな部分で自分はやっぱりお笑い芸人ではないかもなあっていうところは感じますので。これからもずっと憧れているのかもしれない。

 

 

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