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マツオヒロミさん(イラストレーター)
キャバレー(1972年)

華やかさに影 人間くささ魅力的に

 20代の下積みの時は、絵で生活していきたくて、とにかくがむしゃら。何でも吸収しようという時期に出会った映画です。1931年のベルリンのキャバレー「キットカットクラブ」で繰り広げられる青春群像劇。その華やかな舞台裏では、この時代特有の混沌とした様子が時々顔を出します。
 
 主人公のサリーは黒髪に前下がりのボブカット、バチッとした付けまつげのアイメイクが印象的な女の子。当時夢中だったファッションブランド「アナスイ」のマネキンにそっくりで、動いている!と感動しました。
 
 黒い衣装に身を包んだサリーが、踊り子たちとダンスを踊るシーンは何度もスケッチしました。肩をちょっと上げたり、首を傾けたりする女性のしなやかなしぐさを学びました。
 
 監督フォッシーの下から見上げるアングルは、明るさだけでなく、暗さをちょっと忍ばせていると思います。以前私が描いていた女性は、アンニュイと言われていました。目に光をいれないことで、誰にでも身に覚えがある「ハレとケ」の「ケ」の部分を表現していたんです。豪華な着物を着た女性の着崩れやシワをあえて描くのは、着物は身体に沿うもの、身のこなしによってその人らしさが出ると思っているからです。私は、そういう人間くさい、どこか抜けた部分や隙の部分に魅力を感じます。
 
 この映画を自分の物語として見られるのは、影の部分を知っているにおいがするから。当時、どんな絵を描きたかったというとこれだったんだと思います。こういうものを作りたいという思いが凝縮した私の物語でもあるんです。

 (聞き手・佐藤直子)

 

 
 監督=ボブ・フォッシー

 製作国=アメリカ    

 出演=ボブ・フォッシー、マイケル・ヨークほか

 

 岡山県在住。「マツオヒロミ展 ~レトロモダンファンタジア~」が東京・弥生美術館で6月30日まで。新刊に「マイ ガーランド」(河出書房新社)。

マツオヒロミ

 

HP:http://matsuohiromi.com

 twitter:http://twitter.com/matuo

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マツオヒロミさんのロングインタビューはこちら

https://www.asahi-mullion.com/column/article/dmovie/6047